Daily Archives: 2017-03-08

大澤誉志幸 Song Book


大澤誉志幸のデビュー35周年記念作品はアーティスト・シンガー“大澤誉志幸”と、ソングライター“大澤誉志幸”が同時に楽しめる作品。大澤誉志幸自身のヒット曲と、大澤誉志幸が提供した楽曲を自身によるセルフカヴァー・バージョンで収録したDISC-1、大澤誉志幸が提供した楽曲をオリジナル歌唱アーティストの音源で収録したDISC-2による、単なるベストとは一線を画す、ミュージシャン・大澤誉志幸の偉大なる35年の足跡を音で刻んだメモリアル作品。

なかなか面白いアルバムです。もっと言うならば、結構マニアックなアルバムです。
簡単に説明するならば、ベストアルバムとコンピレーションアルバムとの合体盤。既に彼の「ベスト盤」はたくさん発売されていますので、こういう作品を発表することができるのは、大澤氏のソングライターとしての手腕によるところでしょう。
DISC-1は、本人の既発の楽曲と、新録1曲に新曲2曲を収録。
DISC-2は、様々なアーティストに提供した楽曲を、オリジナルの楽曲のまま収録しています。鈴木雅之、吉川晃司、中森明菜、沢田研二、本木雅弘、八代亜紀、石川セリ、松田聖子、アン・ルイス、ビートたけしなど、こんなバラエティに富んだ名前が並ぶだけでも、何かマニアックっぽい感じがしませんか。この2枚で、大澤誉志幸のアーティストとしての片鱗と、ソングライター・プロデューサーとしての片鱗との双方を垣間見ることができる、という点で「面白い」と評させて頂きました。ただし、オールタイムな作品ではなく、かつとりわけDISC-2については80年代の楽曲がメインですので、正直「古っぽさ」を感じるのは致し方ないところかも知れません。

数年前に佐橋佳幸が発売したアルバムのコンセプト(あちらは、佐橋氏がギタリストとして参加した楽曲のオリジナルを収録)とか、岡村靖幸の「Me-imi」デラックス盤(こちらはオリジナルアルバムと他のアーティストへの提供曲を同梱)のコンセプトに似ている感じでしょうか。

ただ、これでも充分なんですが、何かが惜しいんですよ。
ワガママでどうもすいません。すいませんと言いつつ、欲を言うならば…。

  • DISC-1は、DISC-2の楽曲と同じ曲を、同じ順で収録して欲しかった。恐らくDISC-2に収録されている幾つかの提供曲は、これまで自身の曲として発表していないものもあるため、結果的には新曲となってしまうけれど、それはそれで聴いてみたかった。敢えて「そして僕は途方に暮れる」とか「ゴーゴーヘブン」といった代表作を外す、という選択肢もあったのでは。「単なるベストとは一線を画す」というのであれば、尚更そうして欲しかった。
  • それができないのであればDISC-1は、できれば今の音、つまり全曲セルフカバーで聴いてみたかった。渡り鳥ツアーの時の音源でもいいし、別にアコギ1本と打ち込みだけでもいいので、「今の大澤誉志幸」を敢えて主張して欲しかった。
  • こういった作品から新しいファンを発掘することはもちろん大切。でも、古くからのファンも一つよろしくお願いします。大丈夫、古くからのファンはマニアな人が多いはずですから。
  • DISC-2に収録された各楽曲について、楽曲を提供するに至った背景とか今だから話せる裏話とか、何かそういった解説があったら、もっと作品への愛着が深まって良かったのに。
  • もっとも、5年ごとに毎回毎回ベスト盤を発表されるよりは遙かにマシ。ただ、正直言ってこのアルバムが何を意図するのかがよくわからない。だって、もっと前に発表できたような内容だと思うし。だからこそ、何とも言えぬ中途半端な感じが滲み出ているワケですよ。

といった感じで、欲を言い出せばキリがないとはいうものの、これだけのボリュームがありながら新曲・新録がたった3曲のみっていうのは、やっぱりちょっと寂しいですよ。まあ、DISC-2の録り直しはほぼ不可能とはいえ、何かもう一ひねり欲しかったなあ…というのが率直な感想です。

ちなみにDISC-2には、現在同じレコード会社に所属している山下久美子が絡んでいる楽曲が3曲収録されており、長い間にわたって親交を深めてきたことを垣間見ることができます。お二人の最近の活動、共同名義のコラボレーションアルバムを2作発表したり、ディナーショーに一緒に出演したりしていたこととかは存じていましたが、実はそういう伏線、つまりレコード会社のあからさま過ぎる策略みたいなものがあるんじゃないか、と感じてしまったことに、ちょっとした違和感を覚えたのかも知れませんが。
まあ、それ以前にご本人が「昔のソングライティングのおかげで今でも別に好きなことやっても喰っていけるし、好きなことをやらせてもらう。」みたいなことを、前に観たライブでお話ししていたので、今更華やかな表舞台で日の目を見るような活躍を望んでいるわけではないんでしょうね。相変わらず斜に構えていて意地っ張りなのかも知れませんが、僕はそういうところ、嫌いじゃないです。
(以上敬称略)