魔物と仲良くなりたい – 北海道マラソン2018 -(後篇) #北海道マラソン2018


【快調に飛ばしてきた前篇から続く】

30キロ前後で突如現れた魔物は、脚の痛みも痙攣でもなく、「腹痛」だった。
まるで攻撃の合図のごとくギュルギュルギュル~ッと鳴った胃から下の辺りを、ジワリジワリと締め付けるような痛み。予想外の事態に慌てふためく。

確かに身体が冷えた感じがあったけれど、腹痛を引き起こすほどじゃないよな?給水を取り過ぎた?いやいや、それもない。

よりによって新川通は残り約2.5キロもある。しかし、どんどん失速していくのがわかった。マズい。これは危険かも知れない、とトイレを探すも、周囲にトイレがない。
それまで大量に掻いていた汗が、冷や汗に変わる。

意識と力の入れるところを丹田から括約筋に切り替え、ジョグペースまで落とす。
更に時折歩きながら新川通を抜け出し、33キロ付近の給水所にようやく辿り着き、仮設トイレへ慌てて駆け込む。
何だこれ?別に変なものを喰った記憶もないのに、何が起きたんだ?
レース中にトイレへ駆け込んだことは数度あるが、腹痛で駆け込んだのは今回が初めてだった。
「北海道の魔物」が、ゲリラに形を変えて襲ってきたのだ。

思い当たる節を色々考えながら、妙な違和感とともにトイレットペーパーで拭いたそれを見て、目が点になった。

白いトイレットペーパーが、真っ赤に染まっていた。

え?と思い慌てて下を覗き込むと、そこも赤く染まっていた。け、血便

一気に血の気が引いた。
動揺を隠しながら簡易トイレを出て、気を落ち着かせる。
とにかく、まずは冷静に…。
待てよ、このままレースを続行していいものなのか?(普通ならリタイアしてもおかしくないと思います。)

タイミング良く、反対側の車線を「収容」バスがゆっくり進んでいる。

「ちくしょう…意地でも乗るものか。」

水を一杯だけ飲み干し、再び走り出すも、走っていいものなのかどうかもわからず、すぐに脚が止まる。さっきまでのゾーン状態から完全に解脱、集中力が切れた。汗も全くといっていいほど出てこない。

目の前に現れた、赤い魔物。
しかし、一体何が起きた?自分の身体で今、何が起きているんだ?頭の中が混乱しているのがわかった。
こうなるともはや、精神状態を元に戻すことも難しかった。

歩いて走ってを繰り返し、何度も立ち止まる。まだ腹部に痛みがあるわけではない。ただ単に、走るのが怖いのだ。また同じ状態になったら、今度こそ収容だ…。

沿道からの声援に応えることもできず、情けなさと悔しさが渦巻く。
しかし、ここで凹んでばかりもいられない。何でこういう状況になったのか、もう一度考えてみよう。

もはや意識を向けるのは、そこしかなかった。そして思い当たる節が、幾つか浮かび上がってきた。

薬の飲み合わせ、直前に摂取したサプリ、飲み慣れないカフェインレスのコーヒー…とにかく、普段あまり口にしないものが悪さをしたことは、明白だ。

仲間数人に先を譲ったが、その人数も顔ぶれも、どこで譲ったのか何を言われたのかも記憶に乏しいぐらい、思考能力が低下していた。いや、動揺していたといった方が正しいかも知れない。

北大のキャンパスに入ってもなお、気力は快復しなかった。脚には有り余るほどの余力があるのに、だ。
40キロ過ぎ、再びギュルギュルと雄叫びを上げるゲリラの襲撃を受け、慌てて仮設トイレに駆け込む。ゴールはすぐそこだけれど、またしても赤い魔物が姿を現した。

2度目の火炎噴射からのロケットスタート!とはいくはずもなく、トイレを出た後は疲労困憊で全く走る気にもなれない。CやDのゼッケンを背負ったランナーが次から次へと僕を追い抜いていく。Bブロックというせっかくのアドバンテージを、無駄にしてしまった。結局、周囲のランナーの流れに身を委ね、フラフラになりながら残りの2キロを走り、無気力のままゴール。

魔物に感情まで吸い取られたのか、憤りも怒りも悲しみも悔しさすらも湧いてこなかった。ただ天を仰ぎながら、空虚な気持ちだけが渦巻いていた。

3時間40分47秒は、北海道マラソンでのセカンドワースト。正直、ショックだった。

フルマラソンで(ペースランナーを除いて)3時間30分を切れなかったのも、2年ぶり。大体にして、30kmまでは順調にペースを刻んでいたのに、30キロ以降の僅か12キロちょっとに1時間30分近くも要するって、あまりにも不甲斐なさ過ぎた。スタート時の気温、湿度(気温は22度とか25.5度とか、湿度も75%とか71%とか、各紙の報じ方がバラバラだった)を差し引いても、こりゃないよな、といった感じだった。

もっとも今回は、完全に練習不足だということを自覚していたし、脚の復調具合を確認しながらのレース運びとすることを想定していた。

ただ、最低限でも3時間30分を切るタイム、あわよくば3時間15分を切るようなタイムでゴールしようと考えていたし、現に途中までは充分それを射程圏内に捉えていただけに、この結果は不本意の一言で済まされるような内容ではない。

ただし、もしもそれですら自分の気の緩みだ慢心だと言われるのであれば、「御意」と呟きながら甘んじて受け入れようじゃないですか。

強いて言うならば今回、「走り」に期待が持てない分「内臓」を万全な状態にしてカバーすることに傾注していたが、結果的にはその「内臓」のトラブルにやられてしまった。そのことが、衝撃だった。

「前半快調、後半絶不腸」「便解の余地もない」「敗戦の便」

こんなことを言っては自嘲しているが、なぜこういう形で「魔物」が姿を現したのかについては、それなりに分析を行わなければならないし、今後のレース前の過ごし方、特に直前の食事等にしっかりと反映させていかなければならない。
だってこんな魔物、二度と見たくないじゃないですか。

「失速の理由は明白だから気にするな」「それが30キロの壁」「メンタルの問題では」「寄る年波だよ」
走り終えた後の打上げで、色んなことを言われた。

それもこれも全部含めてマラソン。走り終えてからの反省と振り返りが重要なことは、充分認識している。
だからこそ、ラン仲間の声はとても参考になったし、厳しい言葉でさえもありがたかった。

それにしても、打ち上げの時の僕の凹みっぷりといったら、もう…(同席した皆さん、本当に申し訳ありませんでした。)

いつも以上に衝撃的な内容となってしまったが、そんな中にあった一筋の光明は、約1年ぶりに再会した遠方の仲間たちとエール交換できたこと。

そして、弘前・白神アップルマラソンで3.5時間のペースランナーを務める3人が一堂に会したこと。

もっとも、この結果で腐る気はないし、ここから立ち上がらないと…という思いがある一方、最近毎回同じことを口にしているような気がする。
フルマラソンの走り方を忘れてしまったというか、わからなくなったというか、何というか、ハイ。

(なぜかそれぞれ違う方を睨む黒3人)

しかし、一体いつになったら納得の行く走りに辿り着けるのだろう。
そして、一体いつになったら魔物に会い、魔物を言いくるめ、魔物と仲良くすることができるのだろう。

どうやら試行錯誤の中の停滞期は、もうしばらく続きそうな気配だ。

【完。次回は9月16日の田沢湖マラソン、「魔物は再び現れるのか!?」みんな、 乞う御期待!…って、嘘だや。】


のんべ について

1971(昭和46)年 青森県生まれ。弘前市在住の青森県職員。 プリンスとビールと豆腐とラーメンを愛する。安い一眼レフカメラでいかに安っぽくない写真を撮影するかに興味あり。 ブログの内容の多くは、いつの間にか趣味となった「走ること」がメインです。
カテゴリー: Fun Running パーマリンク

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