初めての地区・学区対抗駅伝大会

10月に入ってすぐのこと。かつて一緒にボーイスカウト活動で汗を流したTくん(大して年齢は変わらないが、中学の後輩なので敢えて「くん」づけにさせてもらう)から、何十年ぶりだろうかというぐらい久し振りにメッセージを頂いた。

現在、隣の学区で体協の事務局をやっていること、21日に開催される弘前市内の地区・学区対抗駅伝の選手が不足していること、ついては、僕に出場して欲しいこと…。

ざっとこんな感じの内容だった。
確か21日は何も予定が入っていないはずだ。(実はこの時点で大きな勘違いをしていた。)
知らない人からのお願いではないし、相当困っているみたいなので引き受けてもいいかな…そんな軽い気持ちで了の返事を返した。

隣の学区とはいえ、亡父の母校だし。

直後に弘前・白神アップルマラソンが中止となり、テンションがガタ落ちしている中、秋田県能代市で開催される「きみまち二ツ井マラソン」の案内が届いた。開催の日付を見て、目が点になった。

10月21日…あれ?28日じゃなかったっけ?
完全に自分の勘違いだった。スケジュール管理がなっていないとは、まさにこのこと。よもやのWブッキングに、愕然とした。
どちらを選択すべきか、天秤に計る作業が始まった。

きみまち二ツ井マラソンは今から2年前、生まれて初めてスポーツで入賞を果たした忘れることのできない大会。
今回はハーフに出場予定だが、大会の雰囲気もいいし、走りやすいコースで記録も出やすい。沈んでいるテンションを上げるには、打って付けの大会だろう。

地区対抗駅伝は、初めての参加で雰囲気がわからない。でも、今年は一度も駅伝競技(リレーマラソン)に参加していない。
家から会場までは車で10分程度だし、(恐らく)約2キロを疾走すればいいだけのこと。まあ、選手が足りなくて出場するぐらいなので、そんなに身構えることもないだろう。

こうやって二者択一の検討を開始したが、程なく出した答えは、「きみまち二ツ井マラソンは出走回避。駅伝大会に出場。」というものだった。

正直、久し振りにハーフマラソンを真剣に走ってみたいという気持ちも消し去ることはできなかったが、最初に快諾した内容を反故にするのは、信義則に反する。

20日、弘前公園RCの朝練にて。
「明日、二ツ井出ないんですか?仕事ですか?」
「う、うん…。」

歯切れの悪い回答に終始する。
二ツ井を回避してまで駅伝に出場することは、ランニングクラブのメンバーにはほとんど話していなかった。僕みたいな走力のない人間が駅伝に出場するということ自体に、気恥ずかしさと後ろめたさがあったのだ。

21日。
朝8時過ぎに自宅を出発し、総合運動公園に向かう。まさに「お仕事」のための出勤みたいな感じ。
陸上競技場に向かうと、既に同じ駅伝に出場すると思われる子どもたちがアップを開始している。

その中で見つけたのが、Dくんだった。

「おはようございます!オレも出ます!よろしくお願いします!」
なんと…僕より遥かに走力が上の彼も出場するとは!
知っている人に会えたという安堵とともに、緊張感が走った。
続いて飛び出した言葉に、狼狽した。

「今回は久し振りにDさんも出るみたいですよ!」
同い年のDさんは、数々の大会で入賞を果たす実力者。
そのDさんも出場するような大会に、軽々しく「出ます」なんて言わなきゃ良かった、と激しく後悔した。

既に6キロほど走り終えたというDくんとコースの確認がてらアップを終えると、今度は見慣れた親子の姿を発見。

「あれぇ?なに、出るの?」と驚いた表情を浮かべたのは、畏友Z。次男のKくんは、小学生ながら相当俊足であることを聞いており、そのKくんがこの駅伝に出場するとのことで、引率と応援を兼ねてやってきたとのこと。

「いやぁ、そうか!のんべも走るのか!こりゃ楽しみが増えた!うちの奥さんにも連絡しよう!」
と、他人事のように喜ぶZ。こっちは楽しいどころかどんどんテンションが下がっていくんですけど。

競技場の建物に入ると、僕に声を掛けてくれたTくんをはじめ、学区の皆さんが準備をしていた。
「おはようございます…。」
消え入るような声でTくんに話しかける。
「あっ!先輩、今日はすいません!よろしくお願いします!」

色々聞きたいことがあったけれど、久し振りにTくんの顔を見た途端、頭が真っ白になって何から聞いたらいいのか浮かんで来ない。…あ、そうだ。
「このチーム、どれぐらいの成績を狙ってるの?昨年は?」
「昨年は、4位でした!」

よ、4位…。これはまたエラいところに呼ばれてしまった。
隣の学区から「助っ人」みたいな扱いでやって来たけど、全然助っ人になるはずがない。

「ごめん、今から謝っておく。オレ、全く戦力にならないから。」
「いいんですよ!大丈夫っす!」

周囲の人たちが、「こいつ、誰だ?」と言いたげに怪訝そうな表情を浮かべる。
「あ、今日お世話になるマカナエです。よろしくお願いします。」

改めて挨拶するも、反応が鈍い。
そりゃそうだよな、「助っ人」がこんなオッサンじゃ、テンション下がるよな…。
その場に居たたまれなくなり、再度コース確認のためDくんとアップに向かう。

アップを終えて戻ると、Tくんがニコニコしながら声を掛けてきた。
みんなでコースの確認を兼ねたアップをするという。
また走るのか…。

小中高生に混じりながら、47歳のオッサンが一緒にアップする姿は、引率者にしか見えなかったことだろう。
「ところでみんなは、昨年も走ったの?」
子どもたちは顔を見合わせ、無言のまま頷く。
結局最後までこんな調子だった。典型的な、浮いた存在ってワケだ。

メンバー表の入った大会の要項とタオルを受け取る。
既に7キロを走り終え、アップするには十分過ぎるぐらい汗だくになっていた。
今日は暑くなりそうだ。

メンバー表を見ると、僕の出番は7区。前述のDくんの他、同じランニングクラブのAWさん等の名前も見える。
レジェンドDさんは6区。一緒のタイミングで走らなくてもいいことが、せめてもの救いだろうか。(同じコースを往復する駅伝なので、何が起こるかはわからないが。)

おもむろに弘前公園RCのピンクのランシャツを取り出し、ゼッケンを装着。
それを見たDくんが、ニヤニヤしながら近づいて来る。
「今日、ランシャツですか!気合い入りまくりじゃないですか!」
いや、今日絶対暑くなるからさ…。

その後、お役所的な挨拶ばかりが続いた開会式が行われ、いよいよ9時15分から競技が開始。

1区を走るのは小学生。Zの次男Kくんも顔を並べている。
号砲とともに勢いよく飛び出す12チームの選手。小学生とは思えない、力強い走りをしている。
最初にたすきの受け渡しを行ったのは、何とKくん。速いとは聞いていたが、こんなに速いとは…。
区間賞決定のKくんにお祝いの言葉をかけようとするも、姿を見失ってしまった。

続々とたすきの受け渡しが行われる中、いよいよ出番が近づいて来た。
時計を見ると、11時前。40分しか経過していないのに、既に10キロ以上を走っている計算になる。駅伝、恐るべし。
前走の選手がトラックに入ってきた。そのすぐ後ろから、違う学区の選手も入ってきた。
うわぁ、一番嫌なパターンじゃないですか。

たすきを受け取り、スタート。どれぐらいペースが上がっているのかわからないが、慌てている感がある。落ち着け…。ところが程なく、背後から足音が近づいて来ていることに気付く。
抜き去るなら、せめて競技場を出てからにしてくれ…。

思いが通じたのか、競技場の外周に入り、人影がまばらになったところで足音が横に並び、そして僕を抜き去った。最初に突っ込み過ぎて自分のペースがあっという間に落ちていたので、ひとまずこの人の背中を追うことにした。

幸いにして、極端に離されることもなく、適度な距離を保ったまま付いていくことができた。

競技場の正面が近づいて来る。Zの声、奥さんの声、更にはTくんらの声が聞こえるが、目を向けることもできなかった。1キロを過ぎた折り返しで先行のランナーから離されそうになるも、再び食らいつく。

(つま先の方向がバラバラ。全く足が揃っていない。)

行けるところまで、とにかく離されないように。

鼓動が速くなり、息が上がってくるのがわかる。残り400メートル。前走の背中が遠くなっていく。ヤバい、ペースがどんどん落ちている。更に離されては、これまでの皆さんの走りを無駄にしてしまう。

トラックに入る直前、最後の力を振り絞る。腰の落ちた不格好な走りだ。

(前傾から仰け反りへ。これが実力…。)

「ごめん…。」と声を掛けて、次走にたすきを渡す。
自分の時計を止めると、ちょうど7分を指していた。

たかが2キロ弱、たかが7分。
たったこれだけのために、どれほど緊張したことか。

結局僕の段階で順位を一つ落としたが、その後のチームの頑張りで盛り返し、5位入賞を果たした。でも、昨年から順位を1つ落としている。しかも、区間賞が二人も出たとのこと。こうなるとますます居心地が悪い。

「もうすぐ個人毎の結果も出ますから。」というTくん。

その内容をチラッと見て目が点になった。
8分7秒?
これはおかしい。百歩譲っても、それはない。

自分の計測では7分ジャストだったし、Zの三男Yくんが持っていた時計でも、6分55秒だったと言っていた。

謎の1分上積みとなり、そのことが他の結果に波及していたのだけど、何せ初出場なので何も言わないことにしよう。
ということで、来年は僕よりもっと足の速い人を確保してください!(初出場で7区の最高齢って、マジで笑えないっす。)

と言いながら、中学生の時にこの大会に出場した妹に続き、まさかこんな年齢になって初出場という、非常にいい経験をさせていただきました。
皆さん、本当にありがとうございました。

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