2016年6月16日

2015年の総括(音楽篇)

クリスマスが終わった途端、すっかり年越しムード。飾られていたクリスマスツリーは門松に置き換えられ、街の喧騒が一層激しさを増しています。 さて、2015年も残り僅か。いろいろ今年を振り返る時期に差し掛かっておりますが、個人的には今年は積極的な活動をしなかった年だな、と思っています。 恐らく一番の要因としては、5年間勤務した部署から異動となり、新しい職場での仕事の内容を叩き込むのに必死で、自分自身の感覚をなかなか掴めなかったことが挙げられます。まあ、こういう職種に就いた以上、40代半ばになろうとも50代になろうとも、それまで見たことも聞いたこともないような仕事に就くことはやむを得ないこと。取りあえず来年3月までは、年度単位で考えたときにどういう流れで仕事が進んでいくのかという、いわゆる時流を捉えることが肝要になってくるはず。まして県内全域を相手にしているとなればなおさらです。いつ何時どこの土地に行こうとも、そういう時流をいち早く捉えて自分のペースを合わせていくことが必要になるということを、これまでも幾度となく経験してきました。 それにしても、もうすぐ45歳となるにあたり、僕は時流を捉えるという作業をこの先何度経験することになるのでしょうか...。 閑話休題。 今年聴いた音楽を振り返ってみたいと思います。温故知新とは言いますが、結局今年も昔から聴いていたアーティストが中心となってしまいました。 浜田省吾 / Journey of a Songwriter 旅するソングライター 約10年ぶりとなるオリジナル・アルバム。僕の中では既に名盤と呼ぶに相応しい一枚だと確信に変わりつつあります。不思議なリズムのドラムからスタートするこのアルバムは、これまで築き上げてきた揺るぎない彼の信念というか、「優しさ」や「暖かさ」に包まれたアルバムだと僕は感じています。10年という月日は、長くもあり短くもあり。戦後70年という節目の時を迎え、10年の間には東日本大震災という未曾有の天災も経験しました。志半ばにして命を落とした人達に対する鎮魂の思いや、どん底から少しずつ立ち上がろうとしている人達への激励、そんなことを感ぜずにはいられない一枚。このタイトルを冠したツアーが行われており、青森でその公演を観ましたが、そちらも凄く良かったです。 佐橋佳幸 / 佐橋佳幸の仕事 1983‐2015 Time Passes On プロレスで言うならば藤原喜明か木戸修か。主役にはなれないが、ギラリと光るいぶし銀のような存在。佐橋佳幸とは、そんな人物だと思います。誰とタッグを組んでも、どんな楽曲でも対応できる...だからこそこのアルバムが斬新だったのだと思います。世の中、色んなオムニバスアルバムやトリビュートアルバムが発表されていますが、多分ここまでバラエティに富んだアルバムは、唯一無二ではないかと。ただ、惜しむらくは、発売元が限られていることでしょうか。 佐野元春 & THE COYOTE BAND / Blood Moon 1980年代をザ・ハートランド、1990年代後半をホーボーキング・バンドという、名うてのミュージシャンで固めたバンドを従えてきた彼が、2000年代半ばになって新たに組んだのは、新進気鋭の若手ミュージシャンで構成されたザ・コヨーテ・バンドでした。(ちなみに前出の佐橋さんは、ホーボーキング・バンドの一員でした。) 佐野元春 & THE COYOTE BANDでは3作目となるこの作品、メッセージ性の強いクセのある楽曲も多い中、個々の作品のクオリティの高さは、バンドとして成熟したことを端的に示すものだと思いますし、曲も歌詞も、しっかり時流を捉えていると思います。最初聴いたときは地味なアルバムだなあ、と思いましたが、地味な中に光る何かがあります。 Janet Jackson / UNBREAKABLE 7年ぶりに発表された通算11枚目のアルバム。「Control」そして「Rhythm Nation 1814」で彼女を一気にスターダムへとのし上げた盟友ともいうべきプロデューサー、ジャム&ルイスと久しぶりにタッグを組んだ快作です。一時期は何をやっても今ひとつパッとせず、近い将来「過去の人」に落ちぶれてしまうのではないかと危惧していましたが、いろいろ紆余曲折を経ながら辿り着いた「原点回帰」。これ、正解だと思いました。 もう、逆に「Rhythm Nation 2015」でいいんじゃないですか?と言いたくなるぐらい、どこか懐かしさすら感じるようなサウンドである一方で、他のミュージシャンとのコラボレーションがあったり、あれやこれやのエッセンスが詰まっていて、多分あの頃の彼女の曲が好きな皆さんならば、聴いてみる価値アリです。 しかし、自ら立ち上げたレーベルの名前が「Rhythm Nation」ですか...。なかなか呪縛から逃れることができないようですね。 Babyface / Return of The Tender Lover そういう意味では、ジャネット同様なかなか過去の栄光から抜け出せずにいるといってもいいアーティスト、Babyface。こちらはソロ名義の前作から8年ぶり、Toni Braxtonとの共作から1年ぶりというインターバルでの新作。まず、タイトルを見て驚きました。自身の過去の大ヒットアルバム「Tender Lover」を冠に据えた、まるで自身の作品に対するオマージュのようなタイトル。前回の共作アルバムを聴いたときに、さてこの人は一体この先何をやらかすんでしょうか...なんてことを思っていたら、何とこちらも「原点回帰」してしまいました。これだけでも充分驚きましたが、前述のジャム&ルイスやテディ・ライリーと並んでの敏腕プロデューサーの一角として君臨していたLaFaceの頃を彷彿させる、キャッチーでどこかAOR的なサウンドに、更に驚き。とりわけ80年代後半~90年代前半の洋楽ファンであれば、きっと懐かしさを感じるはず。40分強という、このご時世にしては非常に短い収録時間のアルバムではありますが、逆に濃縮されているような感じがして、実に心地良いです。 Prince / HITnRUN Phase One Prince / HITnRUN Phase Two 締めくくりはやはりこの方。前にもレビューしているので、こちらは簡単に。蓼食う虫も好き好きとは言いますが、彼ほど海外と日本とでの賞賛の差が激しいアーティストもいないのではないでしょうか。好きな人はとことん好き、嫌いな人は反吐が出るほど大嫌い。マイケルやマドンナのような華やかなシンボル的存在ではなく、どちらかと言えば毒々しくもありどこか気味の悪い存在として扱われ続けていることが、日本国内での彼の評価を下げている一因ではないかと思います。 そんな彼が未だに第一線に君臨している理由...それは、まさに時流を捉えているからなのだと思います。だって彼の楽曲って、皆さんの知らないうちに色んな番組で使われているんですよ。 そんな彼が今年の後半に入って立て続けに発表したアルバム。Phase OneはEDMを多用したどこかチープな仕上がりなのですが、聴けば聴くほど駄作というほどではないのかな?と思うようになってきました。そうして耳に馴染んできた頃に突如発表されたPhase Two。この2つはセットですね。互いに相容れないところはあると思うのですが、両輪として捉えた方がいいです。本当は最初から2枚組で発表したかったんだけど、Oneについてはちょっと実験的な要素もあったので様子見で、Twoの方はOneに対する反応や混沌とする社会情勢を踏まえたアンチテーゼみたいな感じで。...あ、全然簡単じゃなかったですね。すいません。

2016年5月25日

Wild Lips / 吉川晃司

TBS系で放映された「下町ロケット」での財前部長役を筆頭に、最近はすっかり役者づいてしまった吉川晃司も、もう50歳なんだそうで。 どちらかといえばカリカリしているというか、斜に構えて取っつきにくい印象のあった過去と比べると、最近は良い意味で角が取れ、人格者としての雰囲気も漂い始めるようになりました。僕は昔からファンでしたし、コンサートにも足を運んだことがあるのですが、彼に対する「ワイルドでちょっと素行不良」的な印象がガラリと変わったのが、東日本大震災の際に、素性を隠してボランティア活動を行っていたという事実を知った時。その後のCOMPLEX再結成、東京ドームで僕も泣いたなあ...(遠い目)。 前述のとおり、最近はミュージシャンというよりも役者・吉川晃司として板についてきた感はありますが、逆にそれが音楽、演技双方の活動に良い意味で作用しているのかな、と思ったり。 さて、財前部長を演じてから初となるオリジナル・アルバムは5月18日発売、通算19枚目となります。 2013年に発表された前作「SAMURAI ROCK」では、かなりゴリゴリなロックチューンが続いただけに、本作もタイトル通りの「ワイルド」を期待したのですが...。 感じ方は人それぞれだとは思いますが、まず僕が一番最初に感じたのは、あれ...何だろう。何かが、違う。という違和感。 収録曲8曲約35分、うち4曲は既発曲。(ちなみにiTunes Storeでは全8曲に、「SAMURAI ROCK」「アクセル」「LA VIE EN ROSE」のライブ音源がボーナストラックとしてプラスされています。) ガッカリしたわけではないけれど、この短さには何か肩透かしを食らった感じ。 僕の中でまだ咀嚼できぬまま抱いているこのアルバムへの違和感は多分、先行シングルで発売され、アルバムのファースト・トラックともなった「Dance To The Future」への違和感そのものなのかも知れません。そしてこの曲を含め、アニメ、映画、ゲームという現代の三大娯楽(?)とタイアップした曲が既発シングルとして発売されたという事実、曲の出来映えがどうのこうのというよりも、これらの楽曲の構成にどことなく「らしさ」を感じなかった、そして、これまでであればあまり結びつきを得ることのなかったであろう三大娯楽のうち二大娯楽とのタイアップこそが、僕の中で「?」を生み出した最大の要因なのだと思います。 吉川晃司とゲーム、吉川晃司とアニメって、何か違うような。...まあ、既に「仮面ライダー」で下地は出来上がっているのですが。 メディアに掲載されたレビューには「ダンサブルなロック・アルバム」の文字。 でも、正直「Dance To The Future」に関してだけ言えば、そんなにダンサブルといった印象も受けなかったし、ロックといった印象もなく、何か地味な感じ。これからロック調にしようと思った曲が、まだ完成する前に流出してしまった、そんな印象を受けました。この曲がアルバムの最初を飾るという時点で、ここ最近の中では、異質な作品なのかなあ、という感想。例えて言うならば、「プリティ・デイト」を初めて聴いた時みたいな感じ。 違和感を覚えたのはこの曲だけではありましたが、約35分間、ビューーンと飛び抜けるような疾走感もなく、あまりにもあっけなく終わってしまったので、三こすり半でイキそびれた、みたいな。 いや、タイトルナンバーの「Wild Lips」なんかは、メチャクチャ格好良いんですよ。というかむしろ、「エロさ」を貫き通すのであれば、全部こんな感じで通して欲しかったし、この曲だってこの先、ライブの定番になってもおかしくないと思うし。 「Expendable」には休養していた大黒摩季がコーラス参加、ジャケットのキスマークは水原希子によるものなど、それなりに話題性もあるのです。あるのですが、ううむ...なのですよ。 結局のところ彼の場合、シングルで発売された楽曲は「あわよくば売れ線狙い」のタイアップで「当たらず障らず」である一方、本当にやりたいことはアルバムに収録されているのかな、と。 ただほら、ドラマだ映画だと役者付いている手前、音楽活動に没頭する時間もないのに、「財前部長として認知されているうちに出してしまえ」という、自分の意志とは無関係な思惑に振り回された結果としての産物なのだろうか、とも思ってしまいます。早い話が、(小声で)「やっつけ仕事」ってヤツ。 全体を通して感じたことは、50歳という年齢は感じさせないものの、かつての荒々しさや毒々しさが影を潜め、妙に落ち着いた感があるような気が。いや、それはそれで渋さがあってまたいいんですけどね、どうせならとことん大人のエロさを極めて欲しかったなあ。 ちなみにこのアルバム、当初「Rock'n Rouge」というタイトルでの発売を検討したらしいのですが、それって30年以上前に松田聖子が出した曲のタイトルだよね、ということになりボツ、続いて「HOT LIPS」というタイトルが浮上したものの、これは吉川本人が既に同名の曲を発表しており、こちらもボツになったという経緯があったそうな。 まあ、そんな紆余曲折を経て発表された作品ですから、せっかくなのでもう少し聴き込んでみて、単なるゴム(コン●ームでねえっすよ)で終わるかスルメに化けるか判断したいと思います。 で、このアルバムを引っさげた全国ツアーも始まるとのことですが、「財前部長」効果からなのか、各公演とも軒並みソールド・アウトとなっているようです。完全に機を逸しました。

2016年5月12日

岡村ちゃんと私

点滴生活6日目。一応本日をもって点滴はいったん終了し、土曜日の検査に臨みます。ホントに一時はどうなるかと思いましたが、少しずつ、ゆっくりではあるけれど徐々にまた歩み始めている感じ。しつこいようですが、今一度原点に立ち返り、あわてず、あせらず、あきらめずの精神で。 さて、本当は明日も点滴の予定だったのですが、ちょっと別件があり、明日の点滴は休みます。実は岡村靖幸のコンサートが青森市内であるので、それを観に行きます...独りで。 昨年の青森公演は、まさにコンサートが行われるその日の未明に義父が他界し、僕にとっては幻のコンサートとなってしまいました。(しかも妻は飄々とした顔で、「コンサート、行ってきてもいいよ!」と言ってくれましたが、行けるか!苦笑) あの曲を演奏した、あの人の曲もカバーした、色々話を聞くたびに歯ぎしりをしていましたが、1年越しにようやく彼と再会することができそうです。 その岡村ちゃんと切っても切り離せないのが、プリンス。 先日NHK-BSでプリンスの追悼番組が放映されましたが、リアルタイムで観ることができなかった(まだ調子が悪くて寝ていた)ため、昨晩になって、録画していたものを噛み締めるようにじっくりと拝見しました。余計なナレーションやコメントが一切排除され、亡くなるまでの彼の音楽キャリアを総括した1時間10分の番組、締めはもちろん「パープル・レイン」でしたが、思っていた以上の秀逸な内容に、思わず落涙してしまいました。 デビュー当時から「和製プリンス」と揶揄され、プリンスと松田聖子とビートルズに多大な影響を受けたことをこれまでも公言していた岡村ちゃんが、プリンスの死をどのように受け止めているのか非常に気になるところではありますが、プリンスが亡くなった直後の札幌でのライブでは、プリンスの隠れた名曲「Sometimes It Snows In April」を演奏したらしく。 彼のステージやパフォーマンスを見ていると、確かに随所にプリンスの影響を受けたであろうシーンが見受けられます。とりわけそのステージアクションは、プリンスにとって3作目の映画となった「サイン・オブ・ザ・タイムス」の要素がかなり織り込まれているのが分かります。 もっとも、プリンスの要素をいち早く取り入れたのは、大澤誉志幸だと言われていますが...。(上下紫のスーツに身を纏って登場したり、アルバム「CONFUSION」から「Serious Barbarian」シリーズまでの頃の楽曲を聴いてみても、かなりプリンスなどの影響を受けたようなサウンドを耳にすることとなります。) プリンスと岡村ちゃん、僕にとってこの二人の共通点は、「最初の頃は全く興味がなく、むしろ嫌悪していた。」ということでした。プリンスの名前を初めて知ったのは中学生の時、パープル・レインが大ヒットしていた頃になりますが、むさ苦しい風貌に金切り声を上げながら唄うその姿は、純朴で無垢な田舎の少年(←自分で言うな、ってか)にとっては単なる衝撃でしかなく、何かとてつもなく「汚い」何かを見てしまったような気分に苛まれたのでした。 一方の岡村ちゃんも、デビューの頃からラジオで彼の楽曲を何度も耳にしていましたが、何か微妙に外れた音程にバランスの取れない声量と、こちらも「何か変なのが出てきたな」ぐらいな感じで全く聴く気は起こらなかったのです。 しかし、1987年に発表された「Dog Days」という楽曲のPV、ケミカルジーンズの上下に阪神ファンを彷彿させるような虎柄のボーダーというファッションセンスのかけらもない衣装(当時はこれも「アリ」でしたが。)に、小芝居を打ったような中途半端に爽やかな内容がこれまたとても斬新で、それまでの彼に対するイメージが変わってしまったのであります。 (ちなみにこのPVは、1987年当時に発売されたものを音源としていますが、以降のベスト盤に収録されたこの曲は、あまりの音程のはずれっぷりに気づいたのか、なんと録り直しがされています。しかし、録り直ししてもなお...以下略) 更にその約1か月後に広島で行われた「Alive!Hiroshima1987-1997」というコンサートイベント(今で言うロックフェスの走りのようなイベントで、国内のそうそうたる顔ぶれのアーティストが集結したもの)が、後日NHKで放映され、人目ばかりをやたらと気にする岡村ちゃんと、なりふり構わずやりたい放題の尾崎豊が共演するというシーンを見て、衝撃と感動を受けました。その時の動画が、こちら。 録画したVHS、何度観たか分かりません。 この2つで、僕の心はグッと鷲掴みにされ、翌年3月に発売された2枚目のアルバム「DATE」の購入へと続いていったわけです。 date 岡村ちゃんの、他人様に迷惑を掛けながら過ごしてきた波瀾万丈に満ちたこれまでの生きざまは、敢えてここでは触れませんが、僕自身、45年のうち半分以上を彼やプリンスの音楽を聴きながら生きてきたわけで。 気づいたら岡村ちゃんも50歳になっていたわけですが、それでもなお青春を謳歌するような楽曲を発表し、他方それに心ときめかせる青年45歳、どちらもオッサンでちょっと気持ち悪いですかね(笑)。 明日は病のことを忘れて弾けたいと思います。だって、青春て1,2,3,ジャンプですから。

2016年3月26日

SEA BREEZE 2016 / 角松敏生

角松敏生、今昔物語。 1981年のデビューアルバム「SEA BREEZE」、その当時の音源をリマスターしたものに、35年後の「今の声」を再録音して被せるという手法で、新たな息吹が吹き込まれた作品が、先日発売された「SEA BREEZE 2016」。 実はこのアルバム、僕が率先して購入したのではなく、妻から頼まれて購入したもの。 seabreeze2016 記憶を辿るとこのアルバムが発売された頃は確か、AORが隆盛を極めていて、国内でもシティポップと呼ばれるサウンドが好まれていた時代...だったような。といっても僕、まだ10歳なので音楽に対する興味はまだ芽生えていなかったんだけどね。 単なるリマスターでもなく、単なるセルフカバーでもなく。リメイクという一言で片付けるには、あまりにももったいないアルバム。(オフィシャルHPでは「リミックス」としていますが。) 初回限定盤は、ファンにお願いをしてかき集めた未聴のアナログ盤を、マスター型レーザーターンテーブルで再生、収録し直した高品質CDとの2枚組という内容になっているため、1981年当時のアルバム(CD)をお持ちであれば、都合3度このアルバムを楽しむことができる、ということに。 一見するとかなりマニアックというかコアなファン向けの仕様になっているような気もしますが、今の時代に蘇った当時の音源は、当然のことながら古さを全く感じさせず、更に55歳となって円熟味を増したボーカルも相俟って、新譜を聴いているような感覚に。 何せ参加ミュージシャンが凄い!村上“ポンタ”秀一、後藤次利、清水信之、佐藤準、鈴木茂といった錚々たる顔ぶれですので、それだけでも聴き応えは充分。...というか、今このメンバーをそろえて再録音なんかしたら、センセーショナルな話題となるかも知れません。もっとも、今回こういう作品を発表するに至った伏線が、「ボーカルが気に入らないから」ということらしく、既に超一流ミュージシャンによって手掛けられたバッキングトラックがあるわけですから、あとは今の技術によってそれに磨きをかければ、35年後になった今も全く色褪せないサウンドができあがる、というわけ。 デビューしたての若造になんか好き勝手なことはさせない、と言われたかどうかは知りませんが、いろいろ自分の思い描いていた形にならなかった、という不本意もあったのでしょう。途中約5年間は「凍結」と称して活動を休止していた時期がありますが、35年を経て相応の地位を確立した今だからこそ、原点回帰というわけではないにせよ、敢えて過去の自分の作品と対峙したうえで、当時できなかったことを今改めてやってみたんだと思います。その一つとして、今の彼のボーカルを被せることで、前述のとおり単なるセルフカバーにとどまることのない、全く新しい豪華な作品が完成。 そして、今回のマスタリングにより新たに引き出された音もあるようで、実際に聴いてみると厚みのある、全く古さを感じさせない内容に仕上がっています。音の広がりも素晴らしく、なるほどこういう手法もあるのね、と思わず感嘆してしまいました。 一時期は何かと言えば他人の楽曲のカバーか録り直しのセルフカバーばかりで食傷気味でしたが、こういう形で古いものに新たな息を吹き込むのは、とても斬新だと思いました。彼はこれまでも、大なり小なり業界に対して一石を投じてきていましたが、別に最新の音を追いかけなくても、今の技術があれば過去の作品だってこんなに立派に仕上がるんだぜ、ということを言わんばかりの「問題作」。 これもある意味、今後の音楽のあり方というか一つの方向性を示した作品であることは紛れもない事実だと感じます。 ファンの方々から、同じ手法での過去の作品の再発表を望む声が上がっているのも、なんとなくわかるような気が。

2016年3月24日

DEBUT AGAIN / 大滝詠一

予約注文してまだ届いていないアルバムの音源が、そのアルバムを聴く前なのにラジオなどで流れた時、無性に腹が立ちませんか。...あ、僕だけですかね。 先日、たまたま車中でラジオを聴いていたら、大滝詠一さんが唄う「熱き心に」が流れまして、思わずラジオを消したという...。 2013年12月、今年ももうすぐ終わるよ、という時期に流れた大滝さんの訃報に、少なからぬ衝撃を受けたのは僕だけではないはず。 その後、追悼の名のもとに何らかのリリース・ラッシュが続くことは容易に想像できたけれど、思ったほどではありませんでした。没後1年を迎える直前に発表されたベスト盤(ご本人の構想のほか、ご遺族の意向もあったそうです)、40周年を記念した作品のリマスター盤。まあ、そうだよね、とは思っていましたが、ひょっとしたら...と淡い期待を抱いていたこんなアルバムが本当に発売されるとは思ってもみませんでした。
大滝詠一、奇跡のニューアルバム「DEBUT AGAIN」の発売が決定! 32年ぶりのニューアルバムには、松田聖子に提供した「風立ちぬ」や小林旭に提供した「熱き心に」、薬師丸ひろ子への「探偵物語」等、他者への提供曲、プロデュース作品を大滝自身が歌唱したバージョンを収録。 otaki
端的に言えば、「セルフ・カバー」アルバムということなのでしょうけれど、ご本人は生前、この「セルフ・カバー」だけは絶対に出したくないと、盟友でもある山下達郎さんのラジオで話していたらしく、何でこういった音源(それも仮歌ではなくちゃんとスタジオで録音した音源)が残っていたのかは、謎らしいです。 まあそれでも、こうやって日の目を見ることが、ご本人にとっては非常に不本意なことなのかも知れませんが、聴き手側からするととてもありがたいことだな、と思った次第です。 ちなみにどれもこれも一度は耳にしたことがある曲ばかり、それも歌謡曲からアイドル、更にはアニメ主題歌までと非常に幅広いジャンルを網羅しており、そういう点では、こんな言葉で表現するのがホント失礼かも知れませんが、大滝さんはまさに「時代の寵児」だったのでしょう。 通常盤は以下の10曲が収録。( )内は、オリジナルを唄ったアーティスト。 1 熱き心に(小林旭) 2 うれしい予感(渡辺満里奈) 3 快盗ルビイ(小泉今日子) 4 星空のサーカス(RATS & STAR) 5 Tシャツに口紅(RATS & STAR) 6 探偵物語(薬師丸ひろ子) 7 すこしだけ やさしく(薬師丸ひろ子) 8 夏のリビエラ ~Summer Night in Riviera~(森進一) 9 風立ちぬ(松田聖子) 10 夢で逢えたら(Strings Mix)(吉田美奈子など) 初回限定盤は2枚組で、DISC 2には以下の4曲を収録。こちらは洋楽カバーがメインとなっています。 1 私の天竺 2 陽気に行こうぜ~恋にしびれて(2015 村松2世登場! version) 3 Tall Tall Trees ~ Nothing Can Stop Me 4 針切じいさんのロケン・ロール(植木等) ボーナスディスクも含めると収録時間は約1時間1分ですが、もの凄く聴き応えがあります。 ボーナスディスクに収録された「陽気に行こうぜ~恋にしびれて(2015 村松2世登場! version)」は、以前このブログでも紹介した「佐橋佳幸の仕事 1983‐2015 Time Passes On」に収録されているものと同じ音源なのですが、こちらはなぜか冒頭の語りがカットされています。(差別化を図ろうとしたのであれば、あまり意味がないような気も。ちなみに村松2世というのは、佐橋さんのことを指すらしいです。) 個人的には一人アカペラというか一人ドゥワップというか、まさにRATS & STARの真骨頂を単独で行っている「星空のサーカス」がかなりのツボでした。 そうそう、この手のアルバムに関しては、デジタル音源のみを購入するのは絶対に止めた方がいいです。 なぜなら、CDジャケットの内側に書かれているライナーノーツに、色んな裏話的な内容が掲載されていることが多いからです。そしてこの作品についても、音源の発掘に至った経緯や、どういうプロセスでこれらの楽曲が制作されたのかが掲載されています。これを読むだけでも楽しいです。 ほとんど表舞台に出ることもなかったため、とりわけ晩年に至っては一体どんな活動を行っていたのか、謎に包まれたままではありますが、特に私と同世代ぐらいの方であれば(好き嫌いは別として)大滝詠一の名前を知らない人はいないと思いますし、一度や二度は絶対に彼が手がけた作品を耳にしているはず。下世話な言い方になりますが、彼の懐の深さを知るには、最適な作品だと思いました。 もっとも、前述のとおりこれらの作品については、ご本人が存命の間は絶対に発表されることはなかったと思います。なぜなら、その存在すらを否定していたからです。でも、裏を返せばこういった音源が「遺作」として発掘されることは、ご本人の中では織り込み済みだったのかも知れません。 これまで発表されている作品はどれも緻密で計算され尽くしたものばかり。そういった点からみれば、(楽曲の粗さやボーカルの不安定さなどといった点で)この作品に対する古くからのファンの評価がハッキリと二分されるのも、何となく分かるような気がします。(あれも聴きたい、実はもっと作品があるんじゃないかという、ファンの穿った見方も理解できます。) 実のところ僕自身はそんなに大滝詠一作品に対する思い入れがあるわけではないので、音楽史を振り返るという客観的な視点に立ってみると、これは充分「アリ」な作品集(アーカイブ)だと思うんですけどね...。

2016年3月 8日

Back In Time / Judith Hill

米国人の父と日本人の母の間に生まれたJudith Hill。 Michael Jacksonのツアーにバッキング・ボーカルとして帯同する予定だったのですが、御存知の通りMichaelがこの世から旅立ってしまったため、幻に。なので、映画「THIS IS IT」をご覧になった方、あるいはこれからご覧になっても結構なのですが、「I Just Can't Stop Loving You」をMichaelとデュエットした人、といえば、「ああ、あのお姉さんか!」とおわかり頂ける方も多いのではないでしょうか。 この映画を機にブレイク...というわけでもなく、日本ではあまり知られていなかったというのが事実。まあ確かに「THIS IS IT」では、Michaelの横で圧倒的なギタープレイを披露したOrianthiさんに注目が集まり、彼女のブレイクのきっかけとなった、といった感じでしたからね。とはいうものの、彼女の歌声や声量に圧倒された人も多かったらしく、どちらかといえば「玄人好み」のアーティストとして活動を続けていたようです。 ウィキペディアでも、テレビ番組出演や、シングル曲の発表、さらにはスパイク・リー監督の映画「Red Hot Summer」に楽曲を提供したこと、ぐらいの情報しかないのですが...。 そんな中で目をつけたのが、Prince。映画「THIS IS IT」ではなく、テレビに彼女が出演していたのを観たのがきっかけだったようですが、そんなこんなでとんとん拍子で作業は進んだらしく、昨年3月にはPrince全面プロデュースによるアルバム「Back In Time」を完成させ、試聴会まで開いた挙げ句、何とハイレゾ音源のアルバムを2日間に渡ってまるごと無料配信するという荒技に出たのであります...。 さて、ここまでは素晴らしく順風満帆な滑り出しだったのですが、これに噛みついたのが既にJudithと「排他的契約」を締結していたSONY。どうやらPrinceの一連の行動が逆鱗に触れたらしく、何とSONYがPrinceを著作権侵害で訴えてしまったのであります。 結局ほんの短期間の間で無料配信された音源のみが残されることとなり(ちなみに私も配信期間内にDLすることができず、ある方から音源を頂きました。Kさん、ありがとうございました。)、この調子では当然このアルバムはお蔵入りするのだろう、と思っていたのですが...。 実のところ訴訟の顛末は存じ上げないんでございますが、すったもんだの末、その後「Back In Time」はiTunes等での配信が無事に始まったんでございます。 ...がしかし、デジタル配信だけでCDがなかったんですね。 judith それが昨年2015年10月に、SONY傘下のColumbiaではなく、NPGレーベルからの発売が開始されました。まずは良かった良かった。 Keiko Leeを彷彿させるハスキーでソウルフルなボーカルに、Prince色の強いファンキーなサウンド、そして、スローバラードまで何でもこなすといった感じ。さすが数多くの場を踏み、そしてMichaelに見初められただけのことはあります。 Princeが手がけるNPGレーベルのアルバムって何となく、まず最初の1曲でドーンと彼のカラーを出して、その後徐々に彼の色が薄まっていって、また忘れた頃にボンッ!と彼が現れるみたいな、そんな構成が多いような気がするのですが、本作は何か彼の存在を凌駕するような圧倒的なボーカルが凄く素敵なんです。冒頭を飾る「As Trains Go By」、もちろんPrinceカラーが滲み出ていますが、どちらかといえばSly & The Family Stoneを意識したといわれるファンキーな曲から、Princeカラーがかなり濃厚な「Turn Up」へと続き(しかも途中で何か変な日本語っぽい言葉が聞こえるなあ、と思ったら、「ミナサン、モリアガリマショウ、ジュンビシテクダサイ」と言っているらしい。)、その後もファンクありジャズありR&Bありのてんこ盛り。収録時間は約40分と決して長くはありませんが、実に濃厚な時間を楽しむことができると思います。 https://soundcloud.com/judith-hill 以前はSoundCroudでも全曲通して聴くことができたのですが、今はできなくなったのかな? Michaelに見初められ、その後不思議な因果関係(というかJudith自身が「Princeと仕事をしてみたい。」と言ったとか言わないとか)でPrinceプロデュースという最高のデビューを果たすことができたわけですが、どうなんでしょう、Princeファミリーの一員として活躍の場を求めているわけではないのかな。

2016年1月30日

岡村靖幸「幸福」

覚せい剤取締法違反による3度の逮捕歴。ファンであれば、この事実を受け入れざるを得ません。普通の社会であれば、完全に「アウト」。社会的地位も名誉も失い、路頭に迷った挙げ句、再犯を繰り返す...。 さすがに3度目の逮捕の知らせを耳にしたときは、そんな暗澹とした青写真を想像したファンの方も、多かったのではないかと思います。いや、少なくとも僕はそうでした。心底呆れ、こんなファンを「不幸」にするヤツなんて、見限ってやる!ってね。 でも...結局見限ることができませんでした。 そして、刑期を終えて出所した2010年以降、彼の名前を再び目にするようになりました。 まるで何事もなかったかのようにライブハウスでのツアーを再開、ネット上で「パラシュート★ガール」のデモ音源や「ぶーしゃかLoop」なる過去に発表した楽曲の歌詞を繋ぎ合わせたサンプリングのような音源を発表するなど、じわりじわりと活動のペースを上げはじめ、2枚のリアレンジアルバム「エチケット」の発売、更にはシングル曲の発表と続いていきました。 シングル曲は、どちらかといえばポップでキャッチーなナンバーで、他のアーティストともコラボレーションするなど、最初から最後までセルフワークで作品を生み出すという独創的なイメージを払拭するような取組が続きました。 やがてライブハウスでのツアーだけではなく全国ツアーも始まり、かくいう僕も2014年に行われた全国ツアー「むこうみずで いじらしくて」の最終公演を観る機会を得ました。 こうなると否応なしにアルバムへの期待が高まっていたわけですが、それはそれは本当に突然の発表でした。 2015年11月15日付け朝日新聞の全面広告で、1月27日に「幸福」というタイトルのアルバムが、何と11年ぶりに発表されること、そして、オフィシャル通販の限定商品として、完全受注生産のデラックスエディションが発売されるという内容、更には春から全国ツアーが始まることが掲載されました。 しかし、それ以降アルバムに関する情報は一切なし。昨年12月に公式サイト上でツアーチケットの先行販売が行われ、いよいよ2016年1月となっても、全く情報が出てきません。 私事ながら自分の誕生日の2日前が発売予定日なので、勝手に自分自身への誕生日プレゼントと決めていたのですが、さては発売延期か?と半ば諦めていたら、1月25日に「発送のお知らせ」メールを受信。 それでもなお、一切情報はなし。アルバムに収録される楽曲のタイトルはもちろん、何曲収録されるのかも不明。それは、実際に作品を手にしてみなければ分からない、ということに。 しかも、今回のアルバムに関しては今のところデジタル音源での発売を予定していないとのことで、もしもiTunesをはじめとするデジタル音源の発売を待っている人がいるのならば、しばらくは待っても無駄みたいよ、ということだけ一応お知らせしておこうと思います。 さて、配達日厳守で届けられたそれほど大きくないダンボール箱に収められていたのは、白いボックスに赤字で「幸福」と書かれた限定ボックス。当然の話ですが11月15日の新聞広告に掲載されていたものと全く同じものに、CDと写真集(台北日記)とDVD(平熱大陸)が収められていました。(完全受注生産なので、当然のことながら一般の販売はされていません。オークションでは既に3万円超もあるらしく...) DSC_0058 DSC_0061 写真集とDVDの内容は敢えて割愛し(そのうちレビューするかも知れませんが)、ここではCDに特化したお話しを。 まあ、シングルが既に4枚も発売されている状況下でのアルバムだし、これまで発売されたアルバムのことを考えても、収録曲数、時間はそれほど期待はできないんだろうな、と思っていました。 事実、蓋を開けてみたら収録曲は9曲、うち何と6曲が既に発表されている曲(シングル4曲、カップリング1曲、そしてなぜか「ぶーしゃかLoop」まで収録されているという...)で、ホントの意味での新曲は3曲のみ。 正直言って、あちゃあ...これはきっと評価下げるなあ、と思って聴いてみたところ、これがまたどうしてどうして、といった感じでして、一枚のアルバムとしてちゃんと仕上がっているんですね。というかむしろ、かなり好きかも知れません。 デビューして数作続いたちょっとエロ路線の楽曲は鳴りを潜めてしまったものの、全体的に統率感があるといえばいいんでしょうか、かなりオシャレな感じです。まさに、このアルバム一枚だけでかなりの幸福感を味わうことができます。 シングル曲が明るくポップな曲調だったので、アルバムの最初を飾る新曲「できるだけ純情でいたい」のミディアムスローな切なさが、妙に響きます。この1曲を聴けただけでも、ああ、アルバムが発売されて本当に良かったな、と思ってしまいました。続く新曲「新時代思想」は、岡村節炸裂と言えばいいのでしょうか、前作(というか個人的にはものすごく忌々しい記憶しか残っていない)「Me-imi」に収録された「ア・チ・チ・チ」にも似たラップ調で、相変わらず独特な歌詞が面白いです。シングルで発売された「ラブメッセージ」を挟んだ4曲目の「揺れるお年頃」も新曲。もうね、タイトルだけで相変わらず青春しているんだなあ、と。でも、今年51歳なんですよ岡村ちゃんも。51歳のオッサンが「揺れるお年頃」って、出るところ間違えれば捕まりますよ...いや、もう捕まることだけは勘弁して欲しいんですが。 で、新曲は1,2,4曲目のみで、5曲目以降は既にシングルとして発売された曲などが続きます...が、なぜか飽きない。全く飽きない。多分、これからもずーっと飽きない。 最後に収録された「ぶーしゃかLoop」、確かにライブでも披露していましたが、ハッキリ言ってこれはアルバムに収録する楽曲じゃないでしょ...と思ったら、何と手を加えていました。それも、かなりのアレンジ。これは聴いてみてのお楽しみ、ということで。まあ、岡村ちゃんファンなら皆さん御存知なので敢えて触れる必要はないのかも知れませんが、公式サイトからはオリジナルのバージョンと言いましょうか、フルとショートの二種類の「ぶーしゃかLoop」をダウンロードすることができます。

岡村靖幸 | YASUYUKI OKAMURA

1 できるだけ純情でいたい 2 新時代思想 3 ラブメッセージ 4 揺れるお年頃 5 愛はおしゃれじゃない 6 ヘアー 7 ビバナミダ 8 彼氏になって優しくなって 9 ぶーしゃかLOOP 途中色々あったとはいえ、この20年間で発表されたオリジナルアルバムが2枚。これはこれである意味凄いと思うし、もうデビューから25年以上経ってもなお色褪せない「純情で青春しちゃう讃歌」は、彼にしかできない芸当のような気がします。 5月の全国ツアーでは、このアルバムを引っさげて再び青森にやって来ます。僕にとっては2年越しとなる岡村ちゃんとのDATE、今から5月が待ち遠しいです。

2015年11月20日

佐橋佳幸の仕事 1983‐2015 Time Passes On

久しぶりに音楽ネタを。 80年代から90年代にかけての邦楽は、めまぐるしく変遷を辿った時期だったと思う。 Niagara、アルファ、フォーライフ、Epic、Fitzbeat、Moonなどといった大手レコード会社傘下のレーベルの台頭、アイドルからアーティスト指向への変化、女性ボーカルバンドの出現、自主制作盤(インディーズレーベル)の躍進、外国資本系レコードショップの進出、レコードからCD、CDからMDへと変化し続けた音楽媒体、イカ天、ビーイング、ビジュアル系といった相次ぐムーヴメントにバンドブーム、渋谷系ミュージックや和製ラップブームの到来、洋楽カバーからセルフカバー、70年代以降のアーティストの再評価など、枚挙に暇がない。 とにかくあの頃(ちょうど僕が中学生から大学生にかけての頃だ)は、耳に入る音楽は何でもかんでも聴いてみよう、といった勢いで、ちょっとでも気になる音楽が現れようものならば、すぐに市中心部にあったレコード屋やレンタルショップに走ったものだった。 ...やがて、なけなしの小遣いを貯めて、ライブやコンサートにも足を運ぶようになった。 初めて自分のお金で足を運んだコンサート(弘前市民会館で行われた小比類巻かほるのライブ)から30年近く。これまで国内外さまざまなアーティストを観てきたが、国内アーティストのライブ、コンサートを観てきた中で、ダントツの数でバイプレーヤーを務めていたのが佐橋佳幸。そういう意味では、僕がライブ、コンサートで一番多く観てきたミュージシャンこそが佐橋佳幸だと言っても決して誇張した表現ではない。 高校の時に初めて観た渡辺美里を皮切りに、鈴木雅之、佐野元春、山下達郎など、彼がステージ上でギターを奏でる姿を何度見たことか。12年前に開催されたエピック・ソニーの25周年のライブ(LIVE EPIC 25)、今思い返しても凄いメンバーが出演したステージだったけれど、大阪城ホールで観たあの時のバンマスも彼が務めていた。 佐橋佳幸の名前を初めて目にしたのは渡辺美里のアルバム。その後シングル・ヒットとなった「センチメンタル・カンガルー」の作曲を手掛け、それ以降頻繁に彼の名前を目にすることとなった。 彼と初めて遭遇したのは青森で観た渡辺美里のコンサート。確かその時にも彼はバンマスを務めていたが、二人が高校の先輩後輩だという情報は織込み済みで、下世話な言い方をするならば、僕はこの二人はきっと「デキている」のだろうと信じて疑わなかった。 こう言っては失礼だが、決して大きくない背格好でありながら、ステージ上では圧倒的な存在感。何度も息を飲むような演奏を目の当たりにし、その都度「おお…佐橋すげえ!」と心の中で感嘆していたものだった。 そして今回、そんな佐橋佳幸の30年にも及ぶキャリアを総括した作品が発表された。 その名も、佐橋佳幸の仕事(1983-2015) ?Time Passes On? 「演奏、作編曲、プロデュース、ボーカルにコーラス…佐橋佳幸のお仕事あれこれ、音楽生活32年ぶんをみっちり詰め込んだ前代未聞のコンピレーション。」と、触れ込みが凄い。 先日さいたまを訪れた際に、たまたま浦和パルコ内にあるタワーレコードでこの作品を見つけたのだが、あまりにも凄すぎる収録曲に驚愕し、さらに3枚組45曲というそのボリュームにも驚愕し、これは絶対に購入しよう!と即決したのだった…ちなみにその場で購入しなかったのは、少しでも帰りの荷物を減らしておきたいという思惑があったから。その割には他の余計なもの…いやいや、優先順位からどうしても必要だったものは何の迷いもなく購入してしまったのだけど。 何せこの作品、店頭ではタワーレコードのみ、通販もタワーレコードとソニーミュージックショップでしか販売されていない代物。しかし、複数のレコード会社、レーベルの垣根を越えた作品てあり、更には山下達郎と大瀧詠一の未発表曲が収録されているという、これだけでも充分マストアイテムなのだ。 50ページ以上にも及ぶライナーノーツ。ここでその内容を明らかにすることはできないが、それぞれの楽曲解説に綴られた「裏話」が、非常に興味深い。これを読むだけでも、日本の音楽業界、とりわけその当時売れに売れまくっていた楽曲にどれだけこのサハシのエッセンスが吹き込まれていたのかがわかる。というか、このライナーノーツだけでもホント凄いんですわ。 さすがに知らない楽曲も幾つかあるけれど、きっと我々同世代にしてみれば、まさに青春の多感な時代に、実はどれだけ佐橋ミュージックのお世話になっていたかを垣間見ることのできる作品集。 一ギタリストと言ってしまえばそれまでだが、収録されているミュージシャンの顔ぶれを見ただけでも、彼がいかにこの業界で必要とされ、そしてそれに応えていたか、ほんの一部であるが彼の音楽ヒストリーを辿ることができる。 さまざまな楽曲の中で奏でられる彼のギターの音を聴きながら、この作品を単なるコンピレーションアルバムという括りで片付けるのはあまりにももったいなさ過ぎる。 クインシー・ジョーンズやジャム&ルイス、ベイビーフェイス(LA &フェイス)など、敏腕プロデューサは海外にたくさんいるし、国内にも古賀政男を筆頭に阿久悠や松本隆といった素晴らしい作詞家作曲家がたくさんいるけれど、僕が知る限りでは、バイプレーヤーでここまで称賛されるのは、村上”ポンタ”秀一かこの佐橋佳幸ぐらいじゃないだろうか、と思った次第。 百聞は一見にしかず、ではなく百見は一聞にしかず。 同年代の邦楽好きの皆さん、これはマストバイですぞ! sahashi 2015年11月13日発売 品番:MHC7-30038 価格:¥4,630+税 CD3枚組 三方背ボックス入りデジパック仕様 Blu-spec CD2 タワーレコード、Sony Music Shop限定販売 【収録曲:DISC-1】 1. UGUISS / Sweet Revenge (1983) 2. NOBUYUKI, PONTA UNIT / Digi Voo (1985) 3. 藤井康一 / LITTLE BIT LOUDER (1986) 4. EPO / 12月の雨 (1987) 5. 岡村靖幸 / 不良少女 (1988) 6. 大江千里 / ROLLING BOYS IN TOWN (1988) 7. 渡辺美里 / センチメンタル カンガルー (1988) 8. 宮原学 / WITHOUT YOU (1988) 9. Peter Gallway / BOSTON IS BURNING (1989) 10. 鈴木祥子 / ステイション ワゴン (1989) 11. 佐橋佳幸 / 僕にはわからない (1989) 12. 杉真理 / Wonderful Life?君がいたから? (1990) 13. 桐島かれん / TRAVELING GIRL (1990) 14. 矢野顕子 / 湖のふもとでねこと暮らしている (1991) 15. 小田和正 / ラブ・ストーリーは突然に (1991) 【収録曲:DISC-2】 1. 槇原敬之 / もう恋なんてしない (1992) 2. ROTTEN HATS / ALWAYS (1992) 3. 藤井フミヤ / TRUE LOVE (1993) 4. 佐橋佳幸 / Zocalo (1994) 5. 佐橋佳幸 / Time Passes On (1994) 6. 鈴木雅之 / 夢のまた夢 (1994) 7. 氷室京介 / 魂を抱いてくれ (1995) 8. GEISHA GIRLS / 少年 (1995) 9. 福山雅治 / HELLO (1995) 10. 山下久美子 / TOKYO FANTASIA (1996) 11. 佐野元春 and The Hobo King Band / 風の手のひらの上 (1997) 12. 川本真琴 / 1/2 (1997) 13. 坂本龍一 featuring Sister M / The Other Side Of Love (1997) 14. 山下達郎 / 氷のマニキュア (2015REMIX) (1998) 15. SOY / 約束 (1998) 16. 山弦 / SONG FOR JAMES (1998) 【収録曲:DISC-3】 1. 大貫妙子&山弦 / あなたを思うと (2001) 2. 竹内まりや / 毎日がスペシャル (2001) 3. Fayray / I'll save you (2001) 4. 小坂忠 / 夢を聞かせて (2001) 5. MAMALAID RAG / 目抜き通り (2002) 6. Emi with 森亀橋 / Rembrandt Sky (2005) 7. 松たか子 / 未来になる (2005) 8. スキマスイッチ / ボクノート (2006) 9. GLAY / MILESTONE?胸いっぱいの憂鬱? (2012) 10. 真木よう子 / 幸先坂 (新緑篇) (2013) 11. Darjeeling / 21st. Century Flapper (2014) 12. 渡辺美里 / オーディナリー・ライフ (2015) 13. 佐橋佳幸 / ジヌよさらば メインテーマ (2015) <ボーナストラック> 14. 大滝詠一 / 陽気に行こうぜ?恋にしびれて (2015村松2世登場!version) (1997)

2015年8月11日

【寸評】佐野元春 & THE COYOTE BAND 「Blood Moon」

珍しく音楽に関する記事二連投である。今日は、なんちゃって音楽評論家気取りで7月に発売された佐野元春のニューアルバムの寸評を。 --- ロックンロールは、その時代その時代の現代社会に対する反発を表現する一つの形だと思う。 ぶつけどころのない怒りを互いにぶつけ合い、そしてその魂に火を放ち、昇華する。 しかし時代の経過とともに、ストレート一辺倒だったはずのロックンロールは、いつの間にやらジャブやボディブローという多彩な技を駆使するようになり、まるで多様化する社会に迎合するかのように、色んな形へと置き換えられていった。 社会を混沌に陥れるような言論は封じられ、むしろ社会から爪弾きされる世の中。社会から少しでもはみ出してみようものなら、とことん叩かれ、封殺される。そんな矛盾した正義感がまかり通る昨今の現代社会。 社会に警鐘を鳴らし、対峙するのではなく、そこに上手く溶け込みながら、時折正義感を振りかざす、それが現代のロックだとするならば、それは時として詭弁、虚言、戯言となりうる。 51iyUn9sgrL 本作の最初を飾るのは、「境界線」。この曲の発表に際し、彼は沖縄の辺野古を訪れ、率直に意見を述べた。しかしそれは、ファンの間で大きな賛否両論を巻き起こすこととなった。その時を振り返ってのインタビューが掲載されている。 彼は、自然体でロックの真実を探り出し、ジャブやボディブローではなく、ストレートな言葉で、表現しようとしている。ただし、彼の言う「境界線」が何と何を隔て、そして、どこに引かれているものなのかは、正直僕にはわからない。ただ、一つ言えることは、彼と我々リスナーとの間に引かれているものでないことだけは確かだということ。 そして、見えない「境界線」の後に続くナンバーが、「紅い月」。副題は「Blood Moon」。このアルバムのタイトルチューンであるが、「Blood Moon」を和訳すると「皆既月食」。皆既月食の際、太陽の光を遮り、月を紅く染める存在こそがこの地球であること、そしてその月を敢えて「紅い月」と表現したことを鑑みると、実はアルバムの中で最も示唆に富んだナンバーなのかも知れない。 前半は、どちらかと言えばミディアムテンポのナンバー、前作も踏襲したような作品が並ぶ。 中盤になると一転し、毒でも吐くような詞が並ぶ。 そして、後半はクールダウン…。 「COYOTE」「Zooey」に次ぐ、THE COYOTE BANDとの3作目、バンドとしては「COYOTE」の時に既に十分完成されていたのかも知れないが、当時の荒々しさがどことなく研ぎ澄まされ、洗練されたような感じ。かといってその歌詞は挑発的で、現代社会に対する警鐘というよりむしろ、社会や政治に対する皮肉が各所に込められている。しかし彼は、ごく自然にこの社会の行く末を案じ、警鐘を静かに鳴らし、時として対峙も辞さないという姿勢を示したに過ぎない。 この作品をどう読み解き、評価するのかは人それぞれ。ただ、彼はこう言っている。 「自分が書いた曲が、時間を経て、現実が曲に近づいてくるという経験を僕は何度もしている。」 果たして「Blood Moon」は、予言めいた作品なのだろうか。 他方、現代社会を痛烈に風刺した内容と言えるのが、「誰かの神」と「キャビアとキャピタリズム」。特に後者は「インディヴィジュアリスト」を彷彿させるアップテンポのリズムとギターのカット、そして辛辣な言葉が続き、絶対ライブで盛り上がることだろう。 しかしながら、こぶしを振り上げ、髪を振り乱すような激しいロックもなければ、軽妙なポップスもそこにはない。 その象徴として、アルバムに先がけてのシングルと思われた「君がいなくちゃ」が、このアルバムには収録されていなかった。公式サイトの言葉を借りると「全世代に贈る、普遍的な愛の唄」であったこの曲が収録されなかったことに、この作品の重み、特殊性を感ぜずにはいられない。 80年代、彼が「VISITORS」という作品を世に放ったとき、音楽業界ではいち早くヒップホップやラップの要素が取り入れられたその内容に、賛否両論が渦巻いたという。(当時僕は13歳の若造。残念ながらその賛否両論に耳を傾け、咀嚼できるほどの大人でもなければ、耳の肥えたリスナーではなかった。) あれから31年が経ち、「VISITORS」は今もなお、80年代の音楽アーカイヴスの一翼を担う金字塔として輝きを放ち続けている。 これが、予言めいた作品ではないと信じたい。というよりも、この中に収録されているような社会が訪れる、つまり「時間を経て、現実が曲に近づいてくる」ことはあってはならないのだ。 シュールなジャケットに、危うく重い歌詞の連続、そして洗練された楽曲。佐野ロックの神髄、ここにあり、である。そしてそれは、聴く度にどんどん深みを増している。だが、正直言うと「Blood Moon」は、僕の中でまだ「何か」わだかまりがあってうまく飲み込めていないところがある。裏を返せばそれは、この作品(それも強いて言うならば「直接的すぎる歌詞」)に対する「わだかまり」ではなく、現代社会に対する「違和感」なのかも知れない。 しかし、「VISITORS」と全く質は異なれど、「何か」を抱えたまま、「問題作の一つ」としてずっと燻り続けながら、やがて皆既月食が終わった後の、満月のような輝きを放つのではないかと思っている。 その「何か」はきっと、「確信」なのだと思う。進むべく道は混沌としているし、この道が正しいかどうか、誰も「確信」を持てない世の中。だからこそ、リアルなバンド演奏を目の当たりにした時、その足りない部分がきっと満たされることだろう。10月のライブがますます楽しみになった。

2015年7月14日

東京音頭/木津茂里×岡村靖幸

ハ~ 踊り踊るな~ら ちょいと東京音頭♪ ヨイヨイ 東京ヤクルトスワローズの応援歌としても知られるあの曲を民謡歌手の木津茂里さんが歌い、岡村ちゃんがほぼ全ての演奏(恐らく和太鼓以外)とプロデュースを担当するというコラボレーションが実現しました。
「東京音頭」は盆踊りの定番曲で、プロ野球チーム・東京ヤクルトスワローズの応援歌などとしても知られている曲のカバー。木津のアルバム「SHIGERI BUSHI」にも同曲のカバーが収録されていたが、今回は岡村のプロデュースにより全く新しいアプローチのカバーになっている。 この曲は木津がボーカルを務め、岡村がほとんどの楽器の演奏を担当。大瀧詠一が長年制作してきた「ナイアガラ音頭」「イエロー・サブマリン音頭」などの音頭へのオマージュと、2020年に予定されている東京オリンピックへの思いを込めて制作された。(ナタリーより)
ここ最近、断続的に他アーティストとのコラボレーションが続く岡村ちゃん。今回は、まさかまさかの民謡歌手とのコラボ。岡村ちゃんよ、あなたは一体どこを目指しているのだ(笑)。 okamurayasuyuki_tokyoondo_jk_normal ジャケットの女の子が可愛らしい一方(しかも通常盤とライブ会場で販売されたものではジャケットが違うんだそうで。くっそー!)で、「いかにも!」という民謡のこぶしを効かせながら、木津さんのボーカルが冴えまくっています。その一方で、岡村ちゃんの影、というか声はほとんど聞こえません。「アァッ」とか「オゥ」とか「フォー」とかいう、例の独特の合いの手もなし。正直ちょっと寂しいけれど、楽曲そのものには岡村ちゃん「らしさ」が垣間見えて、民謡なんだけど斬新で格好いいです。「東京音頭」ではなく「TOKYO RHYTHM」と標記しているのも妙に納得。DISCOともDANCEとも、ちょっとまた違うんだなこれが。 個人的にはこれ以外の民謡曲についても、原曲を崩さない(歴史や民謡文化にドロを塗らない)程度でアレンジして発表するのもアリだな、と思いました。 ちなみにこのCD、春のツアー「This is my life」の際に会場で先行販売されていたらしいのですが、何せ会場に行くことができなかったという事情もあり、ようやく手にすることができました。 まあ、歌が終わった後の後半は若干単調気味となるため、1曲で5分を超えるアレンジはちょっと長すぎるんじゃないかな、という気がしないわけでもないのですが、それでもまあ、これが岡村ちゃんなんだろうな、と。 9月には園子温監督直々のオファーで制作した「映画 みんな!エスパーだよ!」の主題歌、「ラブメッセージ」が発売予定だそうです。