2009年10月 7日

歯車は、一枚では回らない

補正執行停止、2.5兆円=3兆円目標、上積みを指示-来週にも最終額確定・政府
10月6日18時16分配信 時事通信

政府は6日、総額14兆6630億円の2009年度補正予算の見直しについて、2兆5169億円の執行を停止すると発表した。2日までに各省庁が提出した執行停止額を集計した。ただ、目標としていた3兆円には届かず、鳩山由紀夫首相は、さらに精査を続け上積みを目指すよう各省庁に指示した。最終的な執行停止額を確定し来週中の閣議決定を目指す。
予算の執行停止は極めて異例。これにより捻出(ねんしゅつ)した財源の一部は、子ども手当創設など民主党の主要施策に振り向ける方針だ。
仙谷由人行政刷新担当相は記者会見で「補正予算のさらなる組み替え、再配分ができないか、(各省庁は)がんばっていただきたいというのが願望、要請だ」と述べた。
省庁別にみると、公共事業の割合が高い国土交通省が8875億円と執行停止額が最も多く、農林水産省(4763億円)と厚生労働省(4359億円)を合わせると、3省で執行停止額全体の7割程度を占める。
主な対象事業は、農地集積加速化事業(2979億円)、緊急人材育成・就職支援基金(3534億円)、高速道路の4車線化事業(金額非公表)、日本政策投資銀行の財務基盤強化(1127億円)など。「国営漫画喫茶」とやゆされた「メディア芸術総合センター」(117億円)も対象とされた。 

鳩山民主党が政権交代に向けてぶち上げたのは、日本経済の抜本的な立て直しだった。その実現のためにも、さまざまな「目玉施策」を公約としており、鳩山政権の誕生後、事業実現に向けた財源確保への奔走が始まった。
財源の説明に乏しい、実効性がない、散々陰口を叩かれながらも、鳩山政権は動いた。

総額7兆円と見られる新政権の施策実現に向け、前政権が今年度の補正予算で組んだ「基金」の執行凍結、大型公共事業の見直し、さらに「埋蔵金」と呼ばれる特別会計の運用益の充当などの他、大胆にも「無駄が多すぎる」として補正予算の執行停止にまで踏み込み、現在進行形の事業もストップさせ、事業の洗い出しを行った。
しかし、事業の洗い出しの結果としてかき集めたのは目標の3兆円を下回る2.5兆円。約17パーセントに過ぎない。更に上積みを求めるというが、そのしわ寄せをまともに受けているのは、言うまでもなく地方自治体である。このままでは、目標3兆円へ上乗せするという大号令のもと、本当に必要な事業の予算まで削減されるという事態にもなりかねない。

地方自治体にしてみれば、補助金を見込んで事業を進めようとしたはずが、国の補正予算の執行停止、さらには政府方針の180度転換により、軒並み模様眺めの様相を呈している。仮に今後事業が再開されたとしても、実にタイトなスケジュールで事業実施しなければならないことは容易に想像される。しかも、政府は地方に対する「自主返納」も求めるというが、このまま間延びするようでは、自主返納どころかまともな事業執行すらできない状況だってあり得ることを、政府は認識すべきだ。

あれほど民主党が「無駄だ」と言っていた補正予算について、実際現場に行ってみたら、その重要性・必要性を認識したといった声が、政権交代後の現閣僚の口から聞かれたということ自体、非常に問題があると思うし(裏を返せばそれだけ事業の必要性を精査せずに、闇雲に反対と叫んでいたことになる)、国債発行や消費税増税はしない、と言っていたはずなのに、ここに来て一気にトーンダウンしているのもいかがなものか。早くも、てのひら返しが始まろうとしているのだろうか。

政府が止めた予算の歯車は、霞ヶ関の中だけで回っているのではない。中ぐらいの都道府県や政令指定都市という名の歯車や、それより小振りな市町村、更に人口1000人にも満たないような村といった微少な歯車が噛み合って、歯車は回っている。そして、その歯車がちゃんと噛み合ってこそ、国全体の事業を進めることができるのだ。
しかも、政府が止めた歯車はとてつもなく巨大であり、その歯車を少し回しただけで、どれだけ他の小さな歯車が動かなければならないかということを、今のところ政府は気づいていないような気がする。

そもそも国の歯車はここまで巨大ではなかったはずだ。それが、地方分権だ税源移譲だという大義名分のもと、地方に歯車の操作を委ねると言いながら、自分自身の歯車をどんどん大きくしていったツケが、今になって表面化しているのかも知れない。結局歯車を回しきれない市町村が現れ始めているのも事実だ。
どうも地方分権、地方主権なんていうのは名ばかりで、政府もこれまでの官僚主導から政治主導にする、とはいうが、実際には歯車を回す人が変わるだけの話で、国の歯車の大きさを小さくするような雰囲気ではない。
むしろこのまま政府がムリに歯車を回し続けようとすると、数の中には逆回転を始める歯車も出始めるだろう。というよりも、これまで回っていた歯車を逆回転させようとしているのは、政府の方かも知れない。
霞ヶ関の歯車が更に大きくなることで、気がついたら地方自治体の歯車が火を噴くほど激しく回転せざるを得なくなってしまった、ということにならなければいいのだが。

軋んでいる歯車に、国債という油を注ぎ込んでごまかすのか、増税で白を切るのか、それとも歯車の大きさを変えるところまで着手するのか。

いずれにせよその肝を握るのは、恐らく「子ども手当」になることだろう。
ちなみに昨日の時点では、子ども手当法案の臨時国会提出は、先送りの公算が高いとのこと(まぁ、この手当に対しては財源の説明が非常に曖昧になっていて、もっと国民に対して説明する機会を設けるべきと考える)。

新政権発足から1ヶ月足らず。このままだと国債発行もやむなし、という空気が早くも漂い始めている。前政権が行ってきた事業について「無駄が多すぎる」と声高に叫ぶ前に、新政権はまず自らのマニフェストを検証し、事業の優先順位をつける、すなわち事業の取捨選択をするのが先決ではないか。ハッキリ言って民主党のマニフェストは、何にでも効く特効薬ではない。にもかかわらず、全てのマニフェストを達成しなければ、国民からそっぽを向かれてしまうのではないか、という焦燥感でも生じているのだろうか。
じゃあ敢えて問うが、今まで全てのマニフェストをクリアした政権政党政治家は、この世にどれだけいますか?
政権公約の実現の前に、国民の声に耳を傾けないのだろうか。選挙で過半数を得たから、もはや民意は関係ないのだろうか。
このままだと多くの国民は、バラマキ助成金依存症になってしまうぞ。
自身の事業(そして行政執行)に無駄や矛盾がないか、今一度見直すべきと僕は思う。このままでは、いくつもの歯車がぶっ飛んでしまうぞ。

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