2010年1月25日

僕たちがしてやれること

何でこんな辛い目に遭わされなければならないのだろう。いずれこういう日が訪れるということは、頭の中ではわかっていたつもりだった。でも、何もチョコじゃなくても、いいじゃないか...。

我が家の愛犬チョコ(ミニチュアダックス♀・5歳)に対する突然の「余命宣告」から1日が経った。

あまりに唐突すぎて、正直何をどうしていいのかわからないのが現状だ。

まず昨日、何が起きたかを整理すると...。

昼食と買い物を兼ねて妻と母、僕の3名で外出。家にはチョコ、そしてハナ(雑種♀・9歳)とモモ【ポメラニアン♀・9歳)が残されることになった。チョコは最近、外出についてこようとする癖を出し始めていた。家の中からはキャンキャンという鳴き声が聞こえることもしばしば。
この日は僕が車のエンジンを暖めるために先に出ていたので、当時のチョコの状況はわからない。いずれにせよ、普段と変わらぬ日常の出来事として、外出した。

15時頃帰宅。
母と妻が先に家に入ると、例のごとく3匹の無駄吠えが聞こえた。ところが、チョコの声だけが金切り声のような叫び声になっている。
玄関に入ると、チョコは匍匐前進のような姿勢で絶叫しながら、自分の腰のあたりをしきりに噛もうとしていた。
...何が起きた!?
最初、何か傷でもついたのかと思ったが、出血している様子も見られない。抱きかかえようとすると、後ろ足から力が抜けているのがわかった。
これは!?

チョコの身体にただならぬことが起きていることを察知した我々は、すぐに動物病院に連絡。ところが先方は冷たいもので、「診察は16時からなので、それまでにいらして下さい。」とのこと。緊急も何も関係ないらしい。

車に乗っている間、妻に抱きかかえられたチョコは、苦しそうな声を上げながら身体を反らしている。後ろ足は全く動いていない。頭をよぎったのは椎間板ヘルニアか、骨折か...。でも、両足骨折って考えられないか?

動物病院に着いたのは15時30分過ぎ。しかし玄関には「午後の診察は16時からです」と札が下げられ、鍵がかかっている。車に乗ったチョコはブルブルと震え、自分の身に何が起きているのか理解できていない様子。でもそれは、こっちも一緒だ。

16時5分前。ようやく札が外され、鍵が開いた。一目散に受付に向かい、症状を説明。すぐに診察するので待合室で待っていて欲しいとのこと。

程なく診察が始まり、診察台の上に乗せられたチョコ。体重6.5キロは少し重いので、減量が必要だということを言われた。妻はうわの空で「そうですね...」と呟く。
「体温は...平熱ですね。」
おもむろに医師は背骨のあたりをゆっくりと押し始めた。下半身の力は抜け、後ろ足の肉球やその他の部位を押しても、反応がない。
「レントゲンを撮りましょう。」

待合室で待たされること10分。再度医師に呼ばれる。
「これはですね...。背骨の部分が圧迫されて神経が麻痺してますね。」
「ヘルニア?」妻が呟いた。
「いや...。」医師は言葉を濁すように遮った。
「このあたりの背骨の間隔が狭まっていますよね。」
確かに写真を見ると、胸部のあたりの背骨の間隔が狭まっている。いや、もはやくっついていると言ってもいいだろう。
「...ちょっと待って下さいね。院長を呼んできますので。」

程なく厳つい顔の院長が登場。
レントゲンを見るなり「何だ、完全に潰れてるじゃん。」と呟いた。
その後院長から突きつけられた現実は、僕たちが想像していた範疇を遙かに超える悲しいものだった。

脊髄軟化症を発症していると思われること、症例そのものの数は昨年でも2~3体しかなかったこと、生存率は微々たるものであること、仮に症状を抑えたとしても下半身の麻痺は残ること...。
そして、最も聞きたくない、辛辣な事実を言い渡された。

「下半身に全く反応がないんですよね。ハッキリ言ってここ1週間が勝負です。今起きている脊髄の炎症が延髄まで達すると、呼吸困難に陥り...残念ながら...ということになります。早ければ2~3日中にその症状が現れます。ハッキリ言って、その危険は非常に高い。
一番の問題は尿なんですよ。尿が排出されるか、注意深く見守って下さい。1週間分の薬を処方しますが、火曜日の午後、再度いらして下さい。取りあえず様子を見ましょう。」

診察台の横には注射器が置かれていた。さっきは、「炎症を抑えるために注射します。」という説明をしていたのに、その注射器がしまわれた。
「あ、あの...注射とかは...。」

慌てて僕が聞くと、医師は「薬でも同じ作用がありますから...。」ときわめて事務的に言い放った。
まるで手の施しようがないんだよ、とでも言いたげに。医者が匙を投げるって、こういうことなんだな、きっと。
この時点で僕は、チョコの余命が残り1週間であることを悟った。

チョコは、自分の身に何が起きたのかをようやく悟ったのか、家に帰るとおとなしくなった。
まさかこれほど深刻な状況に陥っていたとは...。
留守していた母に医師から伝えられた症状を説明すると、激しく泣き崩れた。妻も泣いていた。僕はグッと涙をこらえた。

あの時、恐らく思い思いの胸には、後悔の念が渦巻いていたことだろう。ソファを撤去すれば良かった。椅子なんて置くんじゃなかった。跳ねる癖を止めさせれば良かった...。でも、そのいずれもは、後悔先に立たずという一言で片付けられてしまうということを、それぞれ理解していたし、横たわりながら苦しむチョコを目の当たりにして、どうすることもできないというが現実なのだ。

今、チョコは見えない恐怖と戦っている。相変わらず身体は硬直し、自由の利かない自分の身体をどうしたらよいのか、わかっていないような状況だ。

家族として僕たちができることを、チョコのために何ができるのかを必死になって考えた。

妻は、セカンドオピニオンを求めるべきだと言い、ネットであれやこれやと検索を始めた。県内に動物用のMRIがあるのは、十和田市の北里大学獣医学部付属動物病院のみ。そこまで連れて行きMRI検査を受けて、手術すれば、助かる見込みがあるのでは...と。
しかし、検索すればするほど、この症状が非常に深刻であり、助かる見込みのない病気であることを思い知らされることになった。

「嗚呼...。これは助からないんだって...。」

画面を見つめる妻の目からは、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。

恐らくチョコは、日に日に衰弱していくだろうし、近いうちにお別れしなければならないのだろう。
どうにもならないことは頭の中ではわかっているつもり。でも、何もしてやれない自分に対する歯がゆさと苛立ちが渦巻いている。
チョコはほとんど食事を取っていない。薬を含ませた牛乳を飲んでくれたことだけが、気休めとはいえ、せめてもの救いだ。
僕らもまともに食事が喉を通らない。チョコを見ていると、胸を押しつぶされそうな感覚に陥り、食事どころではないのだ。

結局僕らには、チョコの最期を静かに看取ってあげること以外、方法はないらしい。
悲しいけれど、これが僕らにとってチョコのためにしてあげられる唯一のことなのだ。

多分今頃は、母のそばでまたそわそわしていることだろう。最後の最後にこういう役割を母に押しつけなければならないということも、非常に辛いし、母に対して申し訳ない気持ちで一杯だ。
切ない。本当に切ない。やりきれないこの思いを、僕はどこにぶつければいいのだろう...。

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コメント[4]

犬と暮らしてる私にとって、この日記は辛すぎます。

正直なんと書いてよいかも思い浮かびません。

チョコちゃんと1日でも良い思い出を作ってあげて下さい。

つらいねえ・・・
つらい。
そんな急に、そんなことが。
できるだけ一緒にいてあげることくらいしか方法はないのだろうけれど。
奇跡が起こることを願っています。

お辛い気持ちご察しします。同僚さん時代からわんちゃんの話になるとイキイキされていた印象があるので、本当にやりきれないと思います。

実は今日北里大学に家畜課の仕事で初めて行ってきたのです。小動物研究が全国的にも優れている話を聞いてきました。

なんの力にもなれませんが、チョコちゃんのことお祈りしています。

皆様、ありがとうございます。

おかげさまで今朝母の手を借りて排尿したらしく、最悪の事態は今のところ乗り越えたようです。

今はただ、誤診であって欲しい、奇跡が起きて欲しい、そんなことばかりを考えています。

ご心配をお掛けして申し訳ございません。

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