2005年3月 9日

ちょっといい話

今日は(多分)ちょっといい話を披露したいと思います。約13年前、私がアルバイトをしていた結婚式場での実話です。
私はこれまで、友人知人も含めて多くの結婚披露宴に参列あるいは目撃してきましたが、この日の披露宴は、生涯忘れることのできない出来事でした。

大学4年のゴールデンウィーク。私は大学入学当時からアルバイトをしている結婚式場で毎日を送っていました。ちなみに私は、披露宴の行われるホール内で、司会や新郎新婦の先導を担当する人をサポートするという役割を与えられていました。ケーキ入刀の際にドライアイスの装置にスイッチを入れたり、余興のカラオケのスタンバイをしたり、キャンドルサービスで悪戯されないよう常に目を光らせたり、そんな役どころでした。

結婚式場で結婚披露宴が集中するこの時期、立ちっぱなしでの12時間労働は当たり前という日々が続いていました。ちなみにこの期間で、通算15組の披露宴が予定されていました。早朝から深夜までの勤務は当たり前となり、社員もアルバイトも疲労が蓄積し、日増しにイライラも募っていきました。

そして迎えた最後の一組。どこにも行かず、バイトに明け暮れたゴールデンウィークが、ようやく終わろうとしていました。

披露宴前のスタッフミーティングでは、祝辞やお色直しの回数も少なく、幾分早く終わるだろうということ、新婦さんが妊娠3ヶ月であることがスタッフに伝えられましたが、特に珍しいことではなかったので、とにかく無事に(そして早く)披露宴が終わることだけを念じていました。

そして始まった披露宴。祝辞も手短に、乾杯。祝宴が始まり、賑やかに披露宴は進行していきました。

真っ赤な色打掛に身を纏った新婦さんが、洋装へとお色直しのため中座。媒酌人夫人に手を引かれ、高砂の席から降りかけた、まさにその時でした。

最悪のタイミングでやってきたつわりに耐えきれず、突然新婦さんは後ろを向き、その場で嘔吐してしまったのです。慌ててスタッフが、何事もなかったかのように吐瀉物を処理するも、あとの祭りでした。ざわつく会場。動揺を隠しきれない新郎新婦、そしてご両家のご親族。状況が状況だけに、急遽近くの出入り口から中座したものの、会場全体が例えようのない空気に包まれてしまいました。

控え室に何とか到着した新婦は、激しい動揺のあまり大声で泣きわめき、とてもお色直しできる状態ではないということが伝えられました。幾分早く終わるだろうという憶測は見事に崩れ、新郎が中座した後も、重苦しい空気が会場を包んでいました。

司会者は、余興でその場を繕ってはみたものの、お色直しの時間があまりに長すぎると、客からクレームが出る始末。もはや我々の手では、どうすることもできない状況に陥っていました。

新郎や司会者、担当を交えて急遽協議した結果、タキシードに身を包んだ新郎だけが入場し、来場客に挨拶をして披露宴を終える、ということで話がまとまったそうです。

時計をみると、既に終了予定時刻を40分も超えていました。
とそこへ、担当が息を切らせて会場へ。スタッフに対し「入場の準備を」と指示が送られました。

やっと終わる...。正直、そんな思いに駆られていました。

「皆様、たいへん長らくお待たせしました。紋付き、色打掛からお色直しを終えた新郎新婦が入場です!」

え?新郎だけじゃないの?

...扉が開くと、何とそこには、純白のウェディングドレスに身を包んだ新婦を両手に抱きかかえた新郎が仁王立ちしていたのです。予想し得なかった光景に、会場は万雷の拍手。

新郎はその場所に立ち、新婦を抱きかかえたまま、スタンドマイクで手短にお礼の挨拶を済ませました。新婦の顔は笑顔に包まれ、もうそこに涙はありませんでした。むしろ会場のお客様そしてスタッフまでが、その姿を見て涙ぐんでいたのでした。

再び会場は割れんばかりの拍手に包まれ、新郎新婦は会場を後にしました。

あれほどピリピリしていた会場の空気が一気に穏やかになり、披露宴お開きのアナウンスが。それまで呆れと落胆に包まれていた会場のお客様は、みんな笑顔で会場を後にしました。中には「ご苦労さん」とスタッフをねぎらうお客様も。キャンドルサービスも花束贈呈もない、ある意味ではとてもシンプルな披露宴でしたが、それまでの疲れが飛ぶくらい、本当に本当に素敵な披露宴でした。

あれから13年。計算すると、あの時お腹にいた子供は、今年小学校を卒業することに。早いものです。

いろんな記憶が忘却の彼方へと消えていきましたが、あの結婚披露宴は、僕の記憶の中にずっと残っているのです。
いい話、だったかな?(笑)

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コメント(2)

とっても素敵なお話♪
新郎新婦のお二人はもちろんのこと、出席者や
スタッフまでもがほんのりと心温まる気分に
なれたんでしょうね。
いいな〜、結婚式をしていない私には
羨ましい限りです。
今まで、何回か披露宴に行った事はあっても
「感動」とかそ〜いう気持ちには無縁でした。
「まぁ、こんなもんだろう・・」みたいな
諦めっていうのかな。結局披露宴なんて
当人達の自己満足やん・・・って。
でも、こうやって自然と「いいな〜」って思ったのは始めて☆
披露宴も悪くないな♪

まっ、でもうちの旦那に「同じようになったら
どうする??」って聞いたとしたら
きっと「お前を抱きかかえるのは不可能じゃ!!」
って言うだろう・・。(涙)

まっ、結婚十年もたつと
そんなもんですよ〜〜〜。(笑)

活字にすると伝わらないこの【感動の想い】というのが、何だかとても歯がゆいのですが、雰囲気だけでも感じて下さったことに感謝です。ちなみに私、今でもこの話を他人にお話しすると、その時の感動がよみがえってきて、知らず知らずのうちに涙目になってくるんです実は...。

うちも今年で結婚10年目に突入ですが、妻を抱きかかえるのは無理です(笑)。

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