2005年9月10日

「教え子」の結婚式

今日は、僕にとって最後の「教え子」の結婚式だった。

といっても、もともと僕に案内状が来たわけではなく、父に来た案内状だった。それが、父が所用で出席できないということで、僕が代理出席したというだけの話だ。

新郎の御尊父とうちの父は、高校時代の同期生である。そして新郎は、僕が大学時代、半ば頼まれる形でやっていた家庭教師の生徒である。

だから僕にとって新郎は、「教え子」なのだ。

そういうこともあって僕は、「新郎の父の友人」として出席するはずだった父以上に、今日の結婚式を楽しみにしていた。

当時T君は中学2年。ちょうど多感な年頃で、ご両親への反抗が目に見えてわかった。親からの期待。将来への不安。伸び悩む学業。お世辞にも恵まれたとは言えない友人環境。その全てが彼の軸を、微妙にずらしていた。

僕が初めてT君の部屋に入った時、一番最初に彼がやったことは、なんと煙草(セブンスター)をくわえ火を付けるというという行為だった。彼なりの反抗心(あるいは敵対心)。ここでそれを咎めては、彼がきっと心を開くことは決してないだろう。そう思った僕は、こう言い放った。「バカ野郎。若いうちからそんなオヤジみたいな煙草吸ってるんじゃねえよ。」

おもむろに僕は、ポケットに入っていたマルボロを取り出し、フゥーッと一服。
彼も僕もニヤリと笑った。

僕の腹も、彼の腹もこれで決まった。

決して成績が伸びたというわけではなかった。でも、極端に下がったというわけでもなかった。現状維持のままだった。T君は相変わらず、煙草をやめようとしなかった。でも、セブンスターはキャスターマイルドに変わっていた(笑)。そして、勉強だけではなく、いろんな悩みを聞くこととなった。彼にとって僕のアドバイスは、何の役にも立たなかっただろう。でも、そんな彼の心の琴線に触れていくうちに、シャイで純粋、そして真面目な彼の一面を何とか引き出していきたいと思うようになった。更に、お父様からもいろいろお話を伺うこととなり、時には深夜1時過ぎまで、お父様と僕と二人きりで(酒も飲まずに)語り合う、ということもあった。

思えば、初めてブラックバス釣りに挑戦したのも、彼がいたからだ。結果は彼が1匹釣り上げただけと、散々な釣果だった。けれど、沼から海へと主戦場を変えた今のロックフィッシュ釣りのキャリアは、この時の経験があったからこそかも知れない。

僕は、彼が2年生の時に大学卒業・就職が決まっていたので、T君の卒業を見届けることはできなかった。結局T君は、望んでいた高校へは進学することができず、一ランク下の高校に入学した。でも、正直そんなことは、彼にとってはどうでもいいことだった。
駅の階段で偶然ばったり出会ったことがあったが、「おう!久しぶり!」との呼びかけに、T君はいきなり「すいません。理科0点でした!」と、悪びれることもなく、でも恥ずかしそうに話してくれたのが、とても印象的だった。

気が付くと僕は34歳。T君は27歳になったそうだ。そして彼は現在、お父様の事業のお手伝いをしているとのこと。
そのT君が今日、素晴らしい伴侶を迎えた。

約10年振りの再会。彼にビールを注ぐと、嬉しそうに「忙しいのに、来てくれてありがとうございます」と礼を述べてくれた。

感無量とはこういうことをいうのだろうか。
わずか1年のお付き合いではあったけれど、近年、これほど嬉しい結婚式もなかったかも知れない。

相変わらず不器用で、表現下手そうな感じの新郎。照れ隠ししながら、それでも一生懸命な、彼っぽいお礼の言葉だった。
嬉しそうで幸せそうな新郎新婦の姿を見て、久しぶりに涙腺が熱くなる、すてきな結婚式だった。

おめでとう。いつまでもお幸せに。

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コメント(3)

教え子の結婚式に出席したことはまだないのですが、そのうちありそうだな〜。
この前、何年かぶりにばったりあった元生徒のお母さんに「お久しぶりですね。Kちゃん、何年生になりましたか?」
と聞いたら「24歳です。もう結婚して、子供も生まれました。」と言われました。
ショック!!わたしより早く結婚して子供産むなんて!
でも、これから続々と現れてきそうな予感。
それにしても、感動的な結婚式ですね。
きっと彼も先生が来てくれて嬉しかったのでしょうね☆

素敵な結婚式のお話に、私も心暖まりました。
人生、そんな時間が、大切なんだと、最近感じます。。

多分、「教え子」の結婚式に出席するなんていうのは最初で最後でしょう。ちなみに僕が抱えた「教え子」は全部で5人いますが、誰一人志望校に入学することはありませんでした。教えた先生が酷すぎたんでしょうね。

数ヶ月前にもう一人の教え子とバッタリ会いました。「俺、結婚したんです」という傍らには、お腹の大きな奥さんが...。年齢は上ですが、「親」としてのキャリアは、教え子が先輩になりそうですな。

僕にとってもう一つ貴重だったこと。それは、父の同期生の方々と、肩肘張らずに酒を酌み交わしながらお話しできたことでした。

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