2010年4月13日

【一言居士】弘前市長選のこと

当選 51,699    葛西憲之    (63)    無新
    34,314    相馬しょう一    (73)    無現
▽有権者数     149,842
▽投票者数     87,004
▽有効投票     86,013
▽無効・その他     991
▽投票率     58.06%

 任期満了に伴う弘前市長選は11日投票が行われ、即日開票の結果、無所属新人で前副市長の葛西憲之氏(63)が5万1699票を獲得、1万7385票の大差をつけ無所属現職の相馬しょう一氏(73)との一騎打ちを制し初当選した。市民は1期4年の実績を訴えた相馬氏より、市民との対話重視を掲げた葛西氏による刷新を選択した。相馬氏は、市民の関心が高い施設への施策に対する民意とのずれが響いた。投票率は58.06%で前回市長選を2.49ポイント上回った。葛西新市長の任期は16日から。 ※「相馬しょう一氏」の「しょう」は「金」へんに「昌」

4月11日に投開票の行われた弘前市長選挙は、新人の葛西氏が現職の相馬氏に大差をつけて勝利した。ここ最近特に際だっていた、相馬氏の市民感情に配慮を欠いたとも言うべき「失政」を見ると、この結果は当然といえば当然だし、葛西氏の政治的力量に期待するというよりは、相馬氏に失望した市民の票が葛西氏に集まった、といってもいいだろう。そういう意味においては、葛西氏の市長としての力量はこれから問われることになる。
さて今日は、そんな選挙結果を踏まえた所感を述べたいと思う。

今回、一部の経済団体が全面的に葛西氏の後方支援に回った。一方の相馬氏は、市議時代から通算9度連続当選という選挙の巧者であったが、今回ばかりは気の抜けない戦いが繰り広げられたようだ。平日だと僕は弘前市内にいることがないので、選挙戦の盛り上がりがどれほどなのかはわからなかったが、両陣営ともに45~50パーセントと読んでいた投票率が58パーセント台まで上がったことを考えると、それなりに盛り上がったと言ってもいいのかも知れないが、その一方で42パーセントの市民は無関心だったことになるわけで、せめて市長選ぐらい65~70パーセントまで乗せて欲しい、というのが僕の率直な感想だ。ついでに言えば、991票の無効票の中身も気になる。

相馬氏は市議時代から築いた基礎票を持っているといわれていて、投票率が低ければ低いほど有利と言われていた。一方の葛西氏は、浮動票頼みだとするのが大方の見解だったが、結果的には予想以上に浮動票が葛西氏に流れ込んだ、といってもいいだろう。正直、どちらになるにせよ僅差になるのではと思っていたが、この結果は僕からすれば意外だった。

葛西さん(敢えてここは「さん」付けで呼ばせていただく)は元県職員で、土木技師として県土整備部(かつての土木部)を歩み続けた方だ。僕自身は直接指導を仰いだことはなかったが、一度だけ宴席で一緒になったことがあったし、亡父の通夜の際にも参列頂いた、と記憶している。
一方で相馬氏は、亡父が生前お世話になったこともあり、今回の選挙は正直言ってどちらに投票すべきか非常に悩んだ。しかし、最終的には弘前市をどちらに託すか、という判断で決めた。

さて、葛西氏は早速経常経費やその他必要経費を除く全ての市予算執行を停止し、ご自身の意思を反映させたい意向のようだ。合わせて、市総合計画の見直しや、機構改革にも着手したいとの意向を示している。行政経験者という点では、早速の取組に特段の心配をする必要はないと思うが、今後、弘前市の進む方向が大きな転換期を迎えるかも知れない。いろいろ外野の声もうるさそうだが、ここは是非「葛西カラー」を打ち出して欲しいと思う。また、是非その清廉そうなイメージを崩さぬよう、市民との積極的な対話に努めて欲しい。

一方でどうしても気になるのが、今回後方支援といいながら、ちょっと出しゃばり過ぎじゃないか?というぐらい、かなり前面に出てきた経済団体との関係だ。

相馬氏と市経済界とは水と油とも言うべき関係で、とにかく全然歯車が噛み合わなかった。双方の言い分は全然違う方向を向いていて、そもそもベクトルが交わることはなかったと言ってもいいだろう。

相馬市政にそっぽを向かれた経済界としては、行政窓口としての市が全然話を聞いてくれないということで、要するに話を聞いてくれる(裏を返せば団体にとっていろいろ融通の利く、さらに言い方を悪くすれば都合の良い)市長をどうしても置きたかった、というのが本心だろう。
まぁ、僕自身ついこの間まで、仕事の関係で経済団体とお付き合いがあったので、これ以上ああだこうだというのはこれぐらいにしておこうと思うが、いずれにせよ葛西氏には、今回支援してくれた経済界の話にばかり耳を傾けることなく、全方位と中立的な立場での関係にとどめてほしいと思う。それは相馬氏の支援に回った農業団体ももちろん同じだ。

しかし、これまで冷遇されてきた経済界にとっては、自らが支援した葛西氏が当選したことで、これからいろいろと口うるさく介入してくることだってあるかも知れない(いや、間違いなくあるはずだ)。ただ、葛西氏がそんな声ばかりに耳を傾けているようでは、元の木阿弥だ(まぁ、県職員として勤務していた頃の葛西氏の人望を見聞きした限りでは、そんなことをする人ではないと思うけれど)。

これまで土木一筋だった葛西氏が、市の行政をどれだけ司ることができるのかは未知数といっても良いだろう。だからこそここは、一部の利害関係者ばかりに気を遣うようなことだけはして欲しくないのだ。

ここ数年「農商工連携」という言葉がキーワードになっていたが、ハッキリ言って弘前市にはこの視点が欠けていたと思う。いわば縦割り行政ならぬ縦割り産業、とでも言えばいいのだろうか。個人的には、葛西氏が言うように市の商工業の立ち直りも必要だが、そのためには絶対に敵に回せないのが農業者だと思っている。なので、市が中心となって異分野産業を総合的に支援、時には牽引しながら、農商工連携を進めて欲しいと思う。そして何より、12月に開業する東北新幹線開業に向けた取組を、何よりも最重点課題として進めなければならないだろうし、ご自身もそういったことをおっしゃっていた。舵取りがうまくいけば、どんな大波だって乗り越えられる。いろいろ問題が山積している状況ではあるが、どうか卓越した行政手腕を発揮していただきたい。

一方、市長選を終えた市議会の勢力図も大きく塗り替えられることだろう。しかし、市のチェック機能として議会の果たすべき役割は大きい。与党だからといって市長のイエスマンになる必要はないし、野党だからといってやることなす事全てにケチをつけることはない。とりわけ地方議会になるとその傾向が強いような気がするし、数の中には与党になった途端「オラが押し上げた市長、オラホの市長」とばかりに大手を振る人も時々いたような気がするが、あくまで是々非々の立場で臨んで欲しい。

最後に。

正直に言おう。
「今回ばかりは父が居なくて良かった」というのが、息子としての本音だ。

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