2010年8月24日

あの話の続き

1月に披露した、僕の人生の中で殿堂入りを果たしている約20年前の「仙台・ナン事件」の続きを綴るのをすっかり忘れていた。

(前回までのあらすじ)
仙台の某私大受験のため、生まれて初めて独りで仙台市を訪れた僕。下見を終えて腹ごしらえしようと入った店は、本格的なインドカレーの店。インド人との訳のわからぬ会話とスパイスにKOされ、ホテルに到着した後、いよいよ悲劇が僕を襲う...。
(詳細はこちら)

ホテルのフロントでバウチャー券を差し出すと、夕食も朝食も付いた券だという。夕食は2階のレストランで午後6時から提供するとのことだった。

部屋に入ると、さすがにドッと疲れが出てきた。
眠いわけではないのだが、何やら疲れが襲ってくる。この倦怠感は、何なんだろう...。
とその時、何やら胃のあたりから逆流してくるものを感じた。

ん?どうした?

これはおかしい。何かがおかしい。慌ててトイレに駆け込む。程なく、マーライオンよろしく...(以下自主規制)。

鏡を覗き込むと、顔面蒼白。尋常ではない顔色になっている。疲れただけ?うん、きっとそうだ。疲れたんだ。取りあえずベッドに横になる。しかし、さざ波のように寄せては返す吐き気の連続。眠れるどころではない。

結局ようやく落ち着きを取り戻したのが18時30分頃。血色も大分よくなった。

一体何だったんだろう?

僕はその時、カレーのスパイスに胃をやられていたことには全く気がつかなかった。

ああ、マーライオンしたおかげで腹も減ったしなぁ...。
ということで、まだ体調が元に戻ったわけではないのに、そそくさとホテル内のレストランに向かったのだった。

それなりのホテルのレストランということもあり、いきなり入ろうとしたら、席に案内するので待て、と制止された。程なく係の人がやって来て、僕独りを4人掛けのテーブルに案内した。周囲を見ると、白髪の紳士とその令嬢だろうか、ワインを傾けながら談笑している。一方では、金髪の女性と日本人男性が、英語でペラペラと話をしている。これは、えらいところに来てしまったぞ...。

渋い声のボーイがやってきた。「いらっしゃいませ。本日の夕食は、ステーキでございます。」

ステーキ!!!!!!!

ああ、何という美しい響き。未熟な18歳の少年の頭の中では、ステーキを巡る妄想スイッチオーン...。

「焼き方はどのようにいたしましょうか。」

ハッと我に返る18歳。焼き方?ええと、ミディアムとレア、あと何だっけ、ショウガ焼きじゃないし...。体調も今ひとつだし、血の滴るような生肉は絶対食えないな。ええと、きつめに焼いてくださいなんて言うのも何か恥ずかしいし...。

と、口を突いて出た言葉に委ねるしかなかった。

「レアで、お願いします。」

自信満々にレアを注文する18歳。確かこれが一番きつく焼いてくれるんじゃなかったっけ?うん、確かそうだよ。間違いない。
テーブルマナーよろしく沢山のナイフ・フォークを目の前に、半分パニック状態に。

程なく、スープが運ばれてきた。コーンスープだ。ああ、胃に優しいぜ。ありがとう。ゆっくりとスプーンですくい、音を立てないようにすする。それも出来るだけ早く。何せ今晩は、ステーキですから。

スープの皿が下げられ、ついにステーキがライスと一緒に登場。

おおお...久しぶりにこんなステーキを見たぜ。

ゆっくりとステーキにナイフを通す。うーん、柔らかい!
しかし、ナイフで肉を持ち上げた次の瞬間、目が点になった。

したたり落ちる肉汁。生焼けの真っ赤な肉。

ガーン!!!!

そう、格好つけて「レア」なんて頼んだからこんなことになってしまったのだ。だったら最初から「ちょっと強めに焼いてください。」って言えばよかったじゃないか。何やってるんだ、自分...。

猛烈に凹みながら、責めて責めて責めまくる。そしてこうなると、もはや自暴自棄。
もう、なるようになるがいいさ!

白い脂身だけはどうしても口に運ぶことができなかったが、空腹には勝てず、何とか赤身のステーキとライスを平らげた。しかしもはやこうなると、味すら記憶から消去したくなるものなのだ。

傷心のまま部屋に戻り、一応明日に備えて参考書に目を通す。といっても、あまりの衝撃に何を勉強しようとしたのかもよくわからなくなっていた。
こういう日は早く就寝するに限るのだ。そうだ、そういうことなのだ。

というわけで、21時頃には就寝....。

1時間もしないうちにハッと目が覚めた。先ほどのマーライオンだけではない、今度は下からのゲリラ攻撃がやってきたのだ。寝ては七転八倒、起きては七転八倒の繰り返し。
上から下から出るものは全て出した。そして、やがて朝が近づいてきた。目の下にはしっかりと隈が縁取られていた。

もはや予定していた朝食を口にする元気はなく、ホテルをチェックアウト。受験会場に向かう。
もう大丈夫。絶対大丈夫...。

自己暗示のように心の中で呟く。

受験会場に到着すると、既に大勢の人が受験開始を待ち構えていた。ふと周囲を見ると、何と八方を女性に囲まれている。むむむ...これで合格したら...。よからぬことばかりが頭をよぎる中、試験開始。体調は、もう大丈夫?

最初の科目は英語。
何だ、こんなの楽勝楽勝♪と余裕をかましていると、ギュルギュルーっと...。

嗚呼、何てこったい。また腹が奇っ怪な音を出し始めたのだ。

結局試験開始から30分後、退席可能時間になるのを待って退室。ちなみに答案用紙はその時点で全て埋まっていたので、問題はなかったはず。
その後の科目についてもそつなく答案用紙を埋めたが、もはや身はズタズタで心もボロボロ。結果、案の定不合格となった。いや、いろんな意味で不合格になってくれた方が、今となってはよかったのだ。

最大の不運は、盛岡から弘前に向かう帰りのバスで、現在新潟県の某大学で教鞭を執る某S氏と鉢合わせになったことだろう。絶対口外しないことを条件に事の顛末を話したのだが、翌朝学校に行くと、ニヤニヤしながら僕に向かって「ナン」「ナン」と呟く輩が沢山いるのだ。何てことはない、S氏から漏れ伝わった話が、あっという間に広がってしまったらしい。

まあ、これも今となっては笑い話なのだが、実は今年2月まで、あの日のことがトラウマとなり、なかなかナンを口にすることが出来なかったことを今だから明かそう。

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